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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    睦月・おせち

     連載小説「出張料理・おりおり堂」に登場する料理を、日本を代表する料理人「銀座小十」の奥田透さんに再現してもらうこのコーナー。今回は新しい年を祝う「おせち」をお願いしました。

    • 上段左から黒豆、数の子、なます。下段は穴子の昆布巻き、田作り、だて巻き
      上段左から黒豆、数の子、なます。下段は穴子の昆布巻き、田作り、だて巻き

    黒豆は一日にして成らず

    • 還元鉄をスプーンで加える
      還元鉄をスプーンで加える

     ここ数年、「紅葉もまだだよね」という時期に、百貨店からおせちのカタログが届くようになりました。早いです。ひょっとしたらクリスマスケーキよりも早いかもしれません。カタログには10万円、20万円なんて商品もあり、3万、5万の商品がついうっかり「手頃」に思えてしまいます。そんな中から一つ選び、注文するご家庭が最近は多いのではないでしょうか。

     「おりおり堂」も、正月はお休み。初詣を済ませ、元日の午後におせちをいただくようです。三段のお重に詰められた料理は、もちろんすべて料理人・(じん)さんと、オーナー・桜子さんの手作りです。「一の重には、数の子、たたきごぼう、田作り、黒豆」

     これはおせちのうち「祝い(さかな)」とされるもので、そのうち三つを「三つ肴」と言うそうです。内容は地域によって異なり、主に関東では「黒豆、数の子、田作り」。関西では「黒豆、数の子、たたきごぼう」だとか。奥田さんにはまず黒豆を作ってもらいました。


    <黒豆のレシピ>
    材料:黒豆100グラム、重曹3グラム、砂糖600グラム、還元鉄
    (1)黒豆をさっと洗い、ざるに上げる。ボウルに移して重曹を入れ、その中に熱湯を注ぎ、一晩そのままおいておく。
    (2)還元鉄小さじ1杯を加え、6時間ほど火にかける。火から下ろして冷ましたあと、流水に10分ほどさらす。皮が破れていないかなどを確認して豆を選ぶ。
    (3)1リットルの水に、分量のうち砂糖200グラムを加えて薄蜜を作り、その中に豆を入れて一晩おく。
    (4)ざるに上げ、1リットルの水に残りの砂糖を加えて蜜を作り、豆を入れて3時間ほど火に掛ける。火を止めて、そのまま冷ます。

     ざっと3日はかかりますね。「おりおり堂」でも、年末の数日間、豆を煮る甘い香りが漂っていたそうです。

     完成した黒豆は、ふっくらとしてハリがあり、つやつやときらめいていました。その黒といったら、何とも深みがあります。その色を出すのが「還元鉄」。サラサラとした灰色の粉末で、理科の実験にでも使いそうな代物でした。家庭では()びた鉄くぎなどを使いましょう。さっぱりとしていて、かみしめるごとに優しく、上品な甘みが口に広がりました。

    “意味”も併せて伝えたい

     「おせちは一つ一つの料理に“意味”があり、それが日本料理らしくていいなと思います」と奥田さんは話します。数の子は子孫繁栄、田作りは五穀豊穣(ほうじょう)――。「なぜこれをいただくのか、ぜひ伝えていきたいですね」

    <数の子のレシピ>
    材料:数の子25グラム、ワカメ6グラム、だし80cc、薄口しょうゆ10cc
    数の子はきれいに薄皮などを取り除き、薄口しょうゆ大さじ1杯(分量外)でさっと洗う。だしと薄口しょうゆを合わせ、数の子を漬けておく。適当な大きさに切ったワカメと合わせていただく。

    <田作りのレシピ>
    材料:煮干し(わたなどを取り除いたもの)50グラム、砂糖大さじ3杯、 濃口 ( こいくち ) しょうゆ、みりん、酒各大さじ2杯、ゴマ大さじ1杯
    わたなどを取り除いた煮干しを鍋で、から煎りする。調味料をすべて合わせ、別の鍋で沸騰させ、その中に煮干しを入れて絡ませる。最後にゴマと合わせる。

    • 奥田透さん
      奥田透さん

     こうした祝い肴に煮しめ、酢の物、焼き物などを合わせたものがおせち。奥田さんは「一つ一つとても手間がかかるし、なかなかすべてを家庭で作るのは難しいかもしれませんね」と話します。「こんなに狭い日本なのに、地域によってお雑煮もいろいろな種類があります。おせちも家庭ごとの味。どれか一つ作るなら、煮しめなどはいかがでしょう」とすすめてくれました。ちなみに静岡出身の奥田さん、お雑煮は「具はシンプルに鶏肉とホウレンソウ、カマボコくらい。年によってダイコンとニンジンが入っていたかも。うちの母は適当だったんですよ。餅は焼いていない角餅でした」と懐かしそうに話してくれました。

     いつもと同じように夜になり、また朝を迎えただけなのに、年が改まると清新な気がします。そんな日にいただく特別な料理。「おりおり堂」の澄香(すみか)のように、しみじみと味わい、つぶやきたいものです。「はあ、いいお正月だわあ」

    <だて巻きのレシピ>
    材料:卵3個、白身魚のすり身50グラム、むきエビ50グラム、塩ひとつまみ、酒15cc、みりん30cc、薄口しょうゆ5cc
    材料をすべて合わせ、ミキサーでよく混ぜ合わせる。卵焼き器などに流し入れ、弱火で約10分ほど焼く。巻きすで巻いて形を整える。

    <なますのレシピ>
    材料:ダイコン50グラム、京ニンジン10グラム、柿20グラム
    ダイコンと京ニンジンは千切りにし、塩水(200ccの水に6グラムの塩を溶いたもの)に約20分漬けておき、水気を絞る。酢50cc、水40cc、砂糖25グラム、昆布、タカノツメ適量を合わせて甘酢を作り、ダイコン、京ニンジン、千切りにした柿を加え、混ぜ合わせる。

    <穴子の昆布巻きのレシピ>
    材料:昆布4枚(60グラム)、穴子1匹(300グラム)、濃口しょうゆ、酒各70cc、たまりしょうゆ30cc、砂糖40グラム、カンピョウ
    (1)昆布は水2リットルに浸して戻しておく。
    (2)昆布と戻し汁を鍋に入れ、1時間ほど火に掛ける。
    (3)やわらかくなったら、白焼きにした穴子を昆布の幅に合わせて切りそろえて巻く。戻したカンピョウで縛って形を整えておく。調味料を合わせて炊く。

    • カンピョウで3か所ほど縛って形を整える
      カンピョウで3か所ほど縛って形を整える
    2014年12月26日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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