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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    長月・アマダイの丹波蒸し

     何とも平凡な書き出しではありますが、いよいよ味覚の秋の到来です。連載小説「出張料理・おりおり堂」はスタートから半年が過ぎ、32歳婚活中の澄香とイケメン料理人・仁さんがなにやら少し良い雰囲気に。今回は二人の距離を縮めた月見の夜の料理を紹介しましょう。

    料理名にも「味わい」

    • アマダイの丹波蒸し
      アマダイの丹波蒸し

     小説と同様、半年間続いているこのシリーズは、毎回、月ごとの小説に登場する料理のなかから、作者の安田依央さんが料理を数点ピックアップ。「ミシュランガイド」三つ星の日本料理店「銀座小十」の奥田透さんと相談しながらメニューを決めています。

     9月の撮影で、奥田さんが1品目として作ってくれたのは「アマダイの丹波蒸し」。恥ずかしながら、半年で初めて「どんな料理だろう?」と頭をひねりました。

     料理は、小説の第6話「長月 恋の行方と月夜の宴」に登場しました。「丹波蒸しには栗を使う。塩をした甘鯛(アマダイ)を、裏ごしして卵白と合わせた栗、マイタケ、ぎんなんなどとともに蒸し、薄味の葛(あん)をかけたものだ」と紹介されています。

    • 卵白を泡立てる奥田透さん
      卵白を泡立てる奥田透さん

     「和食の料理名は、産地や古人の名前が付けられたものなどがあります。丹波蒸しもクリの産地・京都の丹波地方にちなんだ名で、そうした知識があれば『ああ、クリを使った料理なんだな』と分かる。ほかにも、そばを使った『信州蒸し』など、名前に遊び心が感じられるのが和食らしいなと思います」と奥田さんは話します。

     奥田さんは、蒸し上げるのではなく、オーブンで焼いて仕上げました。アマダイは塩を振って30分ほどおき、酒蒸しに。クリは皮をむき、薄切りにしてから、塩と薄口しょうゆで味を調えただし汁で煮ます。「ここで火を通しすぎないのがポイント。シャキッとした食感を残しましょう」(奥田さん)。泡立てた卵白に、だしで煮たシメジと、ゆでたギンナンを加え、タイの上にのせてオーブンで軽く色づくまで(180度で5分程度)焼きます。塩、薄口を加えただし汁であんを作り、全体にかければ完成です。

     ふんわりとした卵白の食感が楽しく、クリの優しい甘みが白身魚にぴったり。名前だけでなく、見た目の美しさといい、丁寧な下ごしらえといい、「和食らしい料理」と言えそうです。

    お浸しは「ごちそう」

    • キノコの炊き込みご飯。つやの美しさはカメラマンが「宝石箱みたい」とつぶやいたほど
      キノコの炊き込みご飯。つやの美しさはカメラマンが「宝石箱みたい」とつぶやいたほど
    • 使ったキノコは全部で6種類
      使ったキノコは全部で6種類

     もう一品、秋の味覚を代表するキノコを使い、炊き込みご飯を作ってくれました。使ったキノコは全部で6種類。丹波シメジにハナビラタケ、ヤマブシタケ、エリンギ、ナメコ、そしてタモギタケ――どんなキノコかすぐに分かりますか?

     キノコはすべてお湯に浸して火を通し、だし汁に塩、薄口しょうゆ、濃い口しょうゆ、みりんを加えたものに漬け、下味を付けておきます。

     土鍋の蓋を取ると、湯気とともにキノコとしょうゆの香ばしい香りが立ち上りました。キノコはシャキシャキしたもの、プルンとしたものなど、それぞれ食感に個性があります。奥田さんは、「米と一緒にキノコを入れて炊きあげる方法もありますが、キノコにも結構水分が含まれているので水加減が難しいのと、キノコの歯ごたえを楽しんでもらいたいので、ご飯が炊きあがったころに加えるようにしています」と説明してくれました。

     そして春菊のお浸し。「菊菜」とも呼ばれる春菊に黄色い菊花も添えられ、まさに菊の季節にふさわしい料理です。春菊はゆがいて塩と薄口しょうゆで調味しただし汁(吸い地)に漬けておきます。炭火で焼いたシイタケは薄切りに。シメジは吸い地で炊き、菊花は酢水を沸かしてさっとゆで、氷水に落として色を止めます。二番だしに塩と薄口しょうゆを加え、混ぜ合わせて仕上げます。

     お浸しを食べた澄香の感想はこんな感じ(小説から)。「毎度、思うのだが、仁の作るお浸しは彼の作る料理の中でも特においしい。澄香の母の作るお浸しというと、(かつお)節と醤油(しょうゆ)をかけたものや、ポン酢をかけたもの、せいぜいがその上にゴマをかけたもので、野菜を食べさせられている感が強く、特に子供の頃はあまり好きではなかった。だが、仁の作るそれは、まったく別物だった。飲める程度の味付けがしてあるダシが野菜にじっくりしみこんでいる。おまけにそのダシの香り高さと来たら並みではない」

    • 春菊のお浸し
      春菊のお浸し

     そう、お浸しは「ごちそう」です。奥田さんのお浸しも、香り高いだしがしみ込んでいます。上に細く切りそろえられたキノコがのっていたのですが、それがマツタケと聞いて驚きました。大人になったら味わいたい、そんな上質感のあるごちそうです。

     キノコご飯をほおばった澄香は、思わず口にします。「はあ、おいしい。秋だわあ」。季節ごとにおいしいものがあることに、改めて感謝したくなった9月のメニューでした。

    奥田さんのちょこっとアドバイス

     秋のイメージが強いギンナンですが、実は8月半ばくらいから市場に並びます。出始めのギンナンは、今回撮影で使ったようにきれいな緑色で、10月頃になると黄色く色づいたギンナンが出回るようになります。ギンナンは、殻を割ってお湯に入れ、穴あきお玉で軽くクルクルとなでるようにすると皮が簡単にむけますよ。ぜひ試してみてください。

    2014年09月30日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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