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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    文月・ハモの吸い物

     1000年を超す歴史を誇る京都・祇園祭。7月の1か月間にわたって行われる、このけんらん豪華な祭りに欠かせない魚がハモです。連載小説「出張料理・おりおり堂」の第4話でも、“名脇役”を演じていました。小説に登場したメニューの中から、日本料理店「銀座小十」の奥田透さんに吸い物などを作ってもらいました。

    技と知恵の「骨切り」

    • 白いハモの身と梅肉のコントラストが美しい。緑色はユズの皮をすり下ろしたもの。手前は、小さなメロンを輪にして組み合わせている
      白いハモの身と梅肉のコントラストが美しい。緑色はユズの皮をすり下ろしたもの。手前は、小さなメロンを輪にして組み合わせている

     広く知られるようになったとはいえ、関東では、ハモはまだ比較的なじみ深い魚ではないかもしれません。「(はも)という魚を澄香(すみか)は初めて見た。長い。トロ箱に折りかえす形で収まっている。ぬるり、つるりとした感じは、アナゴに似ているが、胴体は太く、面がまえが凶悪だ。ガッと大きく裂けた口に、のこぎりのようなギザギザの鋭い歯が並んでいる。」(「文月 骨切りハモと西から来た男」より)

     料理人の(じん)さんは、「京都と大阪、神戸で八割近く消費されるそうだ」と説明しています。そして小骨を切る「骨切り」の作業を始めました。

     奥田さんが骨切りをするのは、ヒノキの美しいカウンター。その上に、これまた白い身が美しいハモを置き、専用の大きな包丁を手にしました。ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ――奥田さんが腕を動かすたびに、独特の音が響きます。「ハモは小骨が多く、そのままでは食べられないため、いわば“雑魚”だったようです。それを工夫して何とか食べられるようにと京都の料理人が考えたんですね。技と知恵の詰まった料理だと思います」と奥田さんは話します。

    • リズミカルに骨切りをする奥田透さん
      リズミカルに骨切りをする奥田透さん

     そう言いながら、滑らかに長い包丁を動かしました。まるで飛行機がスーッと着陸するときのように、身と骨を切っていきます。「フォームにコツがある」そうです。

     骨切りが済むと、ハケを使って丁寧に葛粉をまぶします。「こうしておくことで、お湯に身を入れたときにベールで包まれたようになり、うま味を閉じこめることができるんです。この処理をしないと、あっという間に味が逃げます。つるりとした食感も夏に向いているんでしょうね」(奥田さん)

     小説で、米寿祝いのパーティーのため、仁さんは「じゅんさいと鱧の吸い物(わん)」を用意しました。

     「骨切りした鱧に丁寧に葛を打ち、湯にくぐらせると身がそり返り、花が開いたようになる。丸くころんとしたフォルムに、細かい包丁目が立ち、牡丹の花のように見えることから、牡丹鱧(ぼたんはも)と呼ぶのだそうだ。仁の仕事は丁寧だ。これを一旦氷水に取り、さらに蒸して椀に盛る。黒い塗りのお椀に、白い牡丹が二輪。梅肉を酒や醤油(しょうゆ)、みりんでのばしたソースを落とせば、ぽっちりと紅をさしたようになる。その上に(かつお)と昆布で取った吸い地をはって、青柚子(ゆず)の皮を置くのだ。」

     奥田さんによると、夏の椀ものには浅めのお椀を使います。涼やかな銀色の器を用意することもあるそうです。ふたを取ると、ふわっとユズの香りが立ち上がり、白い「牡丹」と梅肉のコントラストが目に鮮やかに映りました。身は思った以上に弾力があり、上品な薄口のだしとともに味わえば、ハモのうま味がかみしめられます。見た目の優美さもあり、みやびな一品でした。

    七夕の“メインディッシュ”

    • シイタケや錦糸卵が丁寧に切りそろえられている。星に見立てたオクラもかわいらしい
      シイタケや錦糸卵が丁寧に切りそろえられている。星に見立てたオクラもかわいらしい

     7月といえば七夕。「おりおり堂」でも、ササに折り紙の飾りや短冊を結び、そろって乾杯します。“メインディッシュ”はそうめんで、平安期から宮中での七夕には、そうめんが欠かせなかったともいわれるほど、これまた歴史ある行事食です。

     奥田さんは、小説で描かれたものにならい、そうめんの上にオクラの薄切りとエビ、錦糸卵、シイタケの甘辛く煮たものを並べてくれました。薬味もネギに大葉、ミョウガ、白ゴマ、ワサビ、ショウガ、海苔(のり)と盛りだくさん。どれといただこうか迷うほどです。「夏になると、今日はそうめんがいいなという日がありますよね。たくさん薬味を用意しましたが、私なら、ネギと大葉、ミョウガのうち、どれか二つあれば大満足です。ゴマつゆもいいですね」と奥田さんは話します。めんはプリッとしてコシがあり、薬味の組み合わせによって味の変化が楽しめました。

    • ハモの棒ずし。焼き上げられたハモは香りもよく、濃厚な味わいだ
      ハモの棒ずし。焼き上げられたハモは香りもよく、濃厚な味わいだ

     そして「おりおり堂・七夕の夕べ」のお品書きから、もう1品「ハモの棒ずし」も用意してもらいました。ハモにたれをかけながら香ばしく焼き上げたものを、酢飯にのせて巻きすで巻いてあります。

     先ほどの吸い物のハモはふんわりしていましたが、こちらは全く“別人”のよう。一人二役の名演です。表面はカリッとしており、心地よい歯ごたえがありました。酢飯には大葉の千切りと実ざんしょうのつくだ煮が混ぜ込んであり、何とも深い味わいでした。

     小説で安田さんは、食事をすませた「おりおり堂」の人々が、星を見上げる姿を描きました。七夕はとうに過ぎてしまいましたが、たまには夜空を眺めるのも一興。ゆったりと過ごすそんな夜にぴったりの料理です。「ごちそう」と呼ぶべきそうめんに、ハモの棒ずしは穴子などでアレンジしてみてはいかがでしょう。

    2014年07月29日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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