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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    水無月・ローストビーフ

     うっとうしい雨の季節。連載小説「出張料理・おりおり堂」では、わがまま放題の花嫁と、それに振り回される花婿のドラマがつづられました。二人の晴れ舞台のために料理人・仁さんはすてきな料理を用意しましたが、今月の番外編では、そのなかからローストビーフなど3品を選び、ミシュランガイド三つ星の日本料理店「銀座小十」奥田透さんにアレンジしてもらいました。

    • 奥田透さんが手がけた牛サーロインのたたき煮(左下)、豆腐のすり流し(奥)、紅白のお造り(右下)
      奥田透さんが手がけた牛サーロインのたたき煮(左下)、豆腐のすり流し(奥)、紅白のお造り(右下)

    門出の日にはまっさらな気持ちで

     まずはスープ。披露宴の朝、「おりおり堂」に花嫁の姿はありませんでした。「水無月 モンスターブライドと五色の極楽鳥」から引用します。

     「いたたまれないであろう空気の中、しょぼくれた中年男は出されたスープをごくごくと音を立てて飲み干した」。このスープは「上品、丁寧に作られた純白のビシソワーズ」でしたが、奥田さんは「豆腐のすり流し」を作ってくれました。

     「門出の日はまっさらな、真っ白な気持ちでいたいですよね。私もお店のオープンの日は白い料理を出すことにしています。最初に小十を開いた日はゴマ豆腐、いまの場所に移ったときは、今回と同じ豆腐のすり流しを作りました」と奥田さんは話します。

     絹ごし豆腐の水気を切り、フードプロセッサーに入れます。カツオと昆布で取っただしに塩、薄口しょうゆを合わせた「吸い地」を少しずつ加え、味を調えながらなめらかになるまで回して、冷蔵庫で冷やせば完成。グラスに湯葉を丸めたものを入れ、豆腐のすり流しを注ぎ、その上にウニを載せると、華やかな一品に仕上がりました。白い中に浮かぶ枝豆、ウニの上には青いユズの皮をすったものが添えられ、彩りを加えています。

     濃厚な豆の味。その舌触りは、安田さんが小説で表現したように、「シルクのようになめらか」でした。

    ぜいたくすぎる! とろけるサーロイン

     続いて、小説では「厚切りのローストビーフ」が供されました。「低温でじっくり焼かれた赤身肉は、まさに桜色の肌合いで、悩ましい。目の前で仁さんが切り分けると、じわっと肉汁が(あふ)れた。香味野菜を煮詰めた醤油(しょうゆ)ベースのソースに、今回はホースラディッシュではなく、わさびのすり下ろしたものを添えてある」

     舌の上で肉がとろける様子を想像しながら、思わずつばをのみ込んだ人も多いのではないでしょうか。

    • 牛肉を切り分ける奥田さん。火の通り加減が絶妙で、断面も美しい。
      牛肉を切り分ける奥田さん。火の通り加減が絶妙で、断面も美しい。

     奥田さんは、「牛サーロインのたたき煮」を用意してくれました。牛サーロイン肉は炭火でたたきのようにあぶります。割り下をだしでやや薄めにのばし、鍋に入れて、沸いてきたら肉を入れます。再び沸いたら火を止め、キッチンペーパーをかぶせて1時間くらい漬けておけば完成です。

     付け合わせは賀茂ナス。皮をむいて、沸いた割り下に入れ、再び沸騰したら火を止めます。ナスは煮すぎるとぺたっとしてしまいますが、すぐに火を止めればほどよい歯ごたえが残ります。

     細く切った白髪ネギを高く盛り、和辛子を添えていただきます。おりおり堂の花嫁のいない披露宴では「重めの赤ワイン」が用意されていました。「口に運べば、贅沢(ぜいたく)すぎる味わいに口の中が陶然となった」――至福のひとときと言えそうです。

     もう一品は「紅白のお造り」。仁さんは瑠璃色の皿にシュー生地を敷き、サーモンとホタテで紅白のミニバラを作り、その上に宝石のようなイクラを散らしていました。

    • アオリイカの切り身をくるくると巻いてバラの形に整える
      アオリイカの切り身をくるくると巻いてバラの形に整える

     奥田さんの「紅」はマグロ、「白」はアオリイカです。くるくると巻いて盛りつけ、バラのように見せるのは同じですが、驚いたのはイカの飾り包丁。細かく細かく切れ目が入っており、可憐(かれん)さが際立っていました。

     マグロにはキャビア、イカにはイクラがのせられ、華燭(かしょく)の典にふさわしい豪華さ。マグロとイカで作られた“ミニバラ”の間には、コロコロと丸くかわいらしいものが散らされていますが、これはキュウリと長芋を丸くくりぬいたもの。見ているだけで心が弾みました。

     これまで結婚式の料理を手がけたことはないという奥田さん。「格式張ったのはどうも……と敬遠していましたが、最近はそうしたしきたりがあることも大切だなと思うようになりました」と話します。心のこもった料理にも祝福された「おりおり堂」のジューン・ブライド、どうぞお幸せに!

     

     ※毎回、ご好評をいただいている「安田さんのおまけのレシピ」。今回はクイズ「おりおり堂」の「解答編」として、7月1日にご紹介します。どうぞお楽しみに!

    2014年06月30日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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