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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    皐月・カツオのたたき

     個性豊かなオネエたちの登場で、ますます盛り上がる連載小説「出張料理・おりおり堂」。5月のおしながきは、「目には青葉 山ほととぎす 初鰹(はつがつお)」(山口素堂)にもうたわれるカツオです。小説の作者・安田依央さんのレシピをもとに、日本料理店「銀座小十」の奥田透さんが、たたきを作ってくれました。香ばしい香りと、とろけるような食感がたまりません。

    フウー! ファイアァァ!

     カツオのさくに金串を等間隔に刺しておいてから、わらを焼き台に敷き詰めます。いよいよわらに着火! すぐさま、もくもくと白い煙が勢いよく上がってきました。奥田さんは「まずはこの煙で皮も身も十分にいぶします。この香りが、口に入れたときにふわっと広がるのが醍醐(だいご)味です」と話します。

     そして火を着けて2~3分すると、一気に炎が立ち上りました。小説「皐月 炎の(かつお)とオネエの謝肉祭」では、「仁が串に刺した鰹を(あぶ)ると、大きな炎があがり、おっさんたちがフウー! ファイアァァ!と口々に叫び踊り出した」と書かれていた、まさにこの場面です。50~60センチはあるでしょうか、高々と上がる炎を見て、「おお、本当に『ファイアー!』だ」としみじみ眺めてしまいました。

     カツオは、この炎で、皮のほうを焦げ目が付くまでしっかりあぶります。そうすると、皮と身の間の脂が溶け、甘みが出るそうです。仕上げにもう一度わらを投入し、煙を出して再度香りを含ませました。

    • 手前がカツオのたたき、奥は「土鍋で炊いた豆ごはん」(左)、「アスパラの焼きびたし」(右)
      手前がカツオのたたき、奥は「土鍋で炊いた豆ごはん」(左)、「アスパラの焼きびたし」(右)

    安田さんのレシピ <鰹のたたき>
    (1)まずはカツオの調達。
    (2)焼く。仁さんはわら焼きでしたが、普通の家庭ではいささかハードルが高いので、フライパンでもOK。ちなみに私は料理用のバーナーであぶっています。焼くのは皮から。いい感じに焼き目がついたら身の方を焼きます。なるべく高温で一気に焼き目をつけて、くれぐれも焼きすぎないでください。
    (3)氷水を用意して、急ぎ冷却! これには賛否両論あるようです。冷却する場合は、焼き始める前に氷水を用意しておいてください。
    (4)お好みで大葉(絹糸のように細くなくてもいい)やネギ、おろし 生姜 ( しょうが ) 、ミョウガなどをトッピング。もちろん玉ネギの薄切りやニンニクも。ポン酢はしょうゆ、だし汁、酢、そしてスダチ、カボスなどの搾り汁で。加減はお好み。市販のものでももちろんOK。

     奥田さんは、あぶったカツオをそのままバットにとって冷ましていました。「水につけるとせっかくの香りが沈んでしまうように感じるからです。家庭で作る場合は、ガスであぶるのが一般的だと思いますので、その場合は氷水に入れて冷まし、手早く温度を一定にするといいでしょう」(奥田さん)

    • わらの香りを十分に含ませる
      わらの香りを十分に含ませる
    • 一気に炎が上がった。皮のほうからこんがりと焼く
      一気に炎が上がった。皮のほうからこんがりと焼く

     薬味は、白髪ネギ、ミョウガ、大葉、スプラウト、芽ネギ、ニンニクの薄切りなどを合わせて。ポン酢は、ユズまたはダイダイの搾り汁1カップ、酢70cc、しょうゆ330cc、煮きり酒、煮きりみりん各3/4カップ、だし昆布5センチ角1枚、カツオ節30gを合わせ、1日おいて味をなじませて作るそうです。ざるでこせば完成です。

     美しく盛られたカツオのたたき。まさにビロードのような断面です。口に運ぶと……ここからは安田さんの表現を借りましょう。「魅惑の初鰹である。一切れ口に運ぶと、(わら)焼きの香ばしさと、ショウガに大葉の香味、遅れてミョウガがぴりりと(はじ)ける。同時に、舌の上で身がとろけ、鰹らしい濃厚な脂がじゅわりと拡がった」(13話より)

     今回はこのほか、アミーガ・Death(デス)・ドンゴロス宅で供したのと同じように、アスパラの焼きびたしと豆ご飯を作ってもらいました。

    安田さんのレシピ <アスパラの焼きびたし>
    (1)アスパラは根の方(下から3分の1ぐらいまで)の皮をピーラーでむいて、食べやすい長さに切る。
    (2)グリルかフライパンで焼き目がつくまで焼き、だしとしょうゆを合わせた漬け汁に。

    • きれいに高く盛りつけ、すり下ろした皮を添えて仕上げる
      きれいに高く盛りつけ、すり下ろした皮を添えて仕上げる

     奥田さんは、グリーンとホワイト2色のアスパラを用意してくれました。長いまま炭火で焼き、だしに塩、薄口しょうゆ、少量の濃口しょうゆを合わせたものに、焼きたてをジュワッと漬け込むそうです。アスパラはなかなかほどよい硬さに仕上げるのが難しいもの。見極めのポイントを尋ねると、「焼いているうちに水分が落ちます。少ししわが寄ったくらいが、硬すぎず軟らかすぎず、シャキッと歯ごたえもよく仕上がるタイミングです」とのことでした。

     アスパラに酒蒸ししたささみを加えます。ささみは塩をふって10~15分おき、酒をふって蒸します。手でほぐし、同じだし汁に1時間以上漬けた後、ボウルにすり下ろしたワサビ、濃い口しょうゆ、スダチの搾り汁を合わせ、そこに、器の大きさに合わせて切りそろえたアスパラとささみを入れ、全体を手であえれば完成。奥田さんは最後に、カボスや青ユズの皮をすって振りかけていました。なんて丁寧で細かい仕事……一皿を仕上げる繊細さに思わずため息が出ました。

    安田さんのレシピ<土鍋で炊いた豆ごはん>
    (1)エンドウ豆を用意する。
    (2)米をとぎ、30分ほど浸水させておく。
    (3)土鍋に水、米、豆、塩少々、酒少々を入れて蓋をし、強めの中火で沸騰させる。沸騰したら弱火にして、12~13分火にかける。土鍋によって違うので様子を見て時間は調節を。炊きあがったら、15分ほど蒸らす。

    • 炊きあがった豆ご飯を披露する奥田さん。春らしい一品だ
      炊きあがった豆ご飯を披露する奥田さん。春らしい一品だ

     奥田さんの材料は米210g、昆布だし240cc、塩5g、酒30cc、豆85g。ふだんは昆布をそのまま鍋に入れて一緒に炊いていましたが、「もっと昆布の味が出るのでは」と、今回は前の晩から8時間ほど水に昆布を漬けて、だしを準備したそうです。昆布は取り出します。米を火に掛け、だしが沸騰し始めたら蓋を取り、豆を加えるのが奥田流。

     「豆にしわが寄るのが……という人もいますが、一緒に炊いたほうが豆の味がよくご飯にしみると思います。しわが気になる場合は、別に豆を塩ゆでしておいて、最後に合わせればきれいに仕上がりますよ」(奥田さん)

     シャキッとしたアスパラに、ほんのりと甘みのある豆。すがすがしい風の吹く季節に、ぜひどうぞ。

    安田さんのおまけのレシピ <鰹のあらの生姜煮>
    (1)カツオのあらは塩をして、小一時間寝かし、湯通しする。
    (2)しょうゆ、酒、みりん、生姜で煮る。あら簡単。あらだけに……。

    安田さんのおまけのレシピ< 茄子 ( なす ) のひばりあえ>
    (1)そら豆はさやから出して、塩でもんでゆでる。裏ごししておく。
    (2)茄子は薄切りにし、油であげて塩をふる。
    (3)裏ごししたそら豆と茄子をあえる。あえ衣が硬い場合は水を足す。お好みで少ししょうゆを加えても。
    2014年05月30日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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