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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    卯月・お花見弁当

     「大手小町」初の連載小説としてスタートした安田依央さんの「出張料理・おりおり堂」。32歳婚活中の澄香(すみか)が、イケメン料理人・(じん)さんに抱く恋心の行方も気になりますが、もう一つ目が離せないのは、仁さんの作る料理ではないでしょうか。

     4月に掲載した第1話「卯月」で登場したのは、タワマン夫人のパーティーで披露した春野菜とアサリのパスタ、高級和牛フィレ肉のパイ包み焼き、(たい)のアラで作ったうしお汁――。垂涎(すいぜん)ものの仁さんの料理を、ぜひリアルで見てみたい! その思いを募らせた大手小町編集部は、「おりおり堂」の番外編を企画しました。ミシュランガイド三つ星の日本料理店「銀座小十」の奥田透さんの協力を得て、「おりおり堂」の料理を、毎月1回お届けします。4月の「おしながき」は、仁さんが作ったお花見弁当。春らんまんの一品です。

    安田さんのレシピをもとに、奥田さんが腕をふるう

    • お重にお花見弁当の料理を入れる、「銀座小十」の奥田透さん
      お重にお花見弁当の料理を入れる、「銀座小十」の奥田透さん

     東京では桜の季節が過ぎ、新緑が目にまぶしい4月下旬、安田さんが大阪から東京・銀座に足を運んでくれました。この企画が決まったとき、「何と恵まれたお話でしょう。いやはや、作家冥利に尽きます」と興奮気味に話していた安田さん。少し緊張しながらのれんをくぐり、いざ店内へ。

     

     白木が美しいカウンターの向こうで、奥田さんはお重に天ぷらなどを詰めているところでした。1品ずつ、向きを考えながら丁寧に並べていく様子に、安田さんもうっとり。繊細な箸さばきにため息が漏れました。

     今回のお弁当は、「卯月 タワマン夫人と鯛供養」で登場したもので、安田さんに、思い描くレシピを書き下ろしてもらい、それをもとに奥田さんが仕上げました。ツクシにコゴミ、タラの芽など春らしい食材がそろっています。

     目の前に並んだ3段のお重を前に、安田さんは「もう想像以上で……どうしたらいいのという感じ。本当にありがとうございます」と言葉になりません。「お弁当、特に春のお弁当は楽しいほうがいいですよね。ピンクに黄色、緑など彩りも良く、女性らしいお料理だと思います」(奥田さん)

    • 安田さんのレシピをもとに、奥田さんが作った「お花見弁当」
      安田さんのレシピをもとに、奥田さんが作った「お花見弁当」

    旬のものをいただくこと

    • 奥田さんの話に、次々と質問が出てくる作家の安田依央さん
      奥田さんの話に、次々と質問が出てくる作家の安田依央さん

     「おりおり堂」を書くにあたって、安田さんは、日本らしい「歳時記」を書いてみたいというところから始めたそうです。奥田さんも、我が意を得たりとばかり話してくれました。

     「今は、一年中食べられるものが多すぎます。わざわざ『旬』という言葉を使ってクローズアップしていますけど、昔はそれしかなかったはずなんですよね。人間も動物である以上、旬の時期にそれを食べる必要があると思うんです。でも私たちだけが欲深く、それを破壊してしまった。とはいえ、きっとどこかに本能的なものは残っているので、それに出会ったり、見たりすると『ああ、いいなあ』ってなるんでしょうね」

    安田さんのレシピ <ツクシの白 ( ) え>
    (1)ツクシははかまを取り、あく抜きをする。あく抜きは、米のとぎ汁や酢などの入った湯でゆでて、水にさらす。何度か水を替えるとよい。
    (2)1のツクシをだし汁、しょうゆ、塩、みりん(味付けは気持ち濃いめ)でさっと炊いて、味を含ませておく。
    (3)すりばちで白ゴマ適量をする。
    (4)3に水切りした豆腐を入れ、なめらかになるまでごりごり。
    (5)4に砂糖少々、しょうゆ適量、塩少々、白みそ適量を入れ、まぜ合わせる。
    (6)2のツクシの汁気を絞り、食べやすい大きさに切って、すりばちに入れて和える。
     ※好みで砕いたナッツ類を散らしたり、あぶってぱりぱりにした薄揚げを加えたりしてもおいしい。奥田さんは、ツクシをワラビと白和えにしました。

     

    安田さんのレシピ <ゆでたコゴミ>
    (1)コゴミを洗う。
    (2)塩を多めに入れた鍋でコゴミをさっとゆでる。
    ※お浸しにしてもいいが、今回はシンプルに。しょうゆやわさび、からし、ゆず 胡椒 ( こしょう ) などでいただいても。奥田さんは、コゴミはカツオ節と和えて仕上げました。

     

     真ん中のお重には、桜麩(さくらぶ)やシイタケ、穴子などいろいろな煮物が入っています。中には、湯葉を焼いてから煮たものや、揚げた豆腐を煮たものなど手の込んだ品も。安田さんが「一緒に炊くのではなくて、全部別々に?」と尋ねてみたところ、「全部別です」と奥田さん。なかなか家庭料理でマネするのは大変ですが……。

     「家庭料理になりますと、筑前煮とかブリ大根とか肉ジャガとか、いろんなものを同じ味で炊く。これもおいしいですよね。(別々に味付けするのは)地味な仕事ですけど、こういう一つ一つ細かいところが日本料理の良さですよね。私も若い頃には分からなかったです。20代、30代くらいまでは、『世の中の大人って何で高いお金を払って野菜の炊き合わせを食べているんだろう』と思っていましたから。もっとおいしいものが他にありそうじゃないですか」

     では、なぜ和食の料理人を目指したのか。その理由は「季節感や文化性」だったそうです。

     「ひな祭りにハマグリのお吸い物がどうのこうのとか、赤貝のネギぬたを定番で食べていたとか。『ああ、この国っていいものがあるんだな』と思うようになりました。そうすると、たかが何とかの煮物、何とかの焼き物でも、そこに意味と値打ちを感じられる。『自分はなんかいい仕事をしているのかな』って思えました」(奥田さん)

    日本料理は「本物」

    • 「日本料理は“本物”」と語る
      「日本料理は“本物”」と語る

     奥田さんの店には、海外からの客も多く、そのときも、奥田さんは同じ料理を提供します。その心は――。

     「日本料理は、食べていきなり『おいしい!』っていう料理じゃないんですよ。ブリの照り焼きやトロのお刺し身、ウニのおすしなど、どの国の人でも『おいしい』と一瞬で言ってくれるお料理もありますけど、例えばワラビの白あえなどは、一口食べて『おいしい』ってならないですよね。それは味のトーンが低めで、ストライクゾーンも低めだから。これを分かるには経験値が必要だと思います」(奥田さん)

     それでも、「必ず世界中がこの料理に振り向くとき、これをおいしいというときが、私は来ると思っています。本物ですから」と奥田さんは力強く話しました。昨年12月、和食が国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたことで、その動きはすでに本格化しているといえそうです。

     和食の料理人としての誇りあふれる言葉を「全くだ」と大きくうなずいて聞いていた安田さん。「すばらしい。とても必要なことを教えていただきました。こういう情報が小説の基本の部分だし奥行きになります」と感慨深げでした。奥田さんの料理と言葉から、連載小説「出張料理・おりおり堂」はますます滋味深いものになりそうです。

     

    • タラの芽の天ぷら(手前の列、右から2品目)
      タラの芽の天ぷら(手前の列、右から2品目)
    • 鶏肉の幽庵焼き
      鶏肉の幽庵焼き
    • 桜の花のご飯(奧の列)
      桜の花のご飯(奧の列)

    <タラの芽の天ぷら>
    (1)タラの芽は、堅いところをざっくり落とし、さっと洗う。
    (2)小麦粉(少なめ)と冷水をささっと混ぜる(ぐるぐるかき混ぜてはいけません)。
    (3)水気をふいた1を2にくぐらせ、やや低めの油で揚げる。焦がさないように注意。衣は薄めの方がおいしいです。
    (4)お塩をぱらり。
     ※奥田さんは、このほか、輪切りのタケノコにエビしんじょうを挟んだもの、フキノトウ、アスパラ、キス、稚アユなども天ぷらに。桜の塩漬けを乾燥させて細かく砕き、塩に混ぜる「桜塩」を添えていただきます。

     

    <鶏肉の幽庵焼き>
    (1)鶏むね肉はフォークか竹串で突き刺し、穴をあけておく。
    (2)しょうゆ、酒、みりん、ユズの搾り汁を合わせ、1を漬けておく(漬ける時間はお好みですが、1時間もあればいいかな。時間がない時は漬け汁をかけながら焼いてもいい)。
    (3)2をグリルで焼く。焦げないように注意。油をひいたフライパンで焼いてもおいしいです。こちらも低温でじっくりどうぞ!
    (4)仕上げに、あればユズの皮の千切りをのせても。
     ※奥田さんはユズの搾り汁は加えずに味付けをしました。炭火でじっくりと焼き上げた鶏肉は、しっとりとしていました。

     

    <菜の花のお浸し>
    (1)だし汁、しょうゆを合わせておく。お好みでみりんを入れる場合は煮立てておく。
    (2)菜の花を洗う。
    (3)菜の花をさっとゆで、冷水にとる。くれぐれもゆですぎに注意。
    (4)3を食べやすい大きさに切り、1に浸す。好みで1にからしを加えてもおいしい。

     

    <フキと鯛の子の炊き合わせ>
    (1)鯛の子は一口大に切って、沸騰した湯に入れて湯通しする。
    (2)だし汁、酒、しょうゆ、みりん、塩、砂糖に、千切りにしたショウガを入れ、煮立てる。
    (3)2に1を入れ、しばらく炊く。20分ぐらい。
    (4)そのまま冷ましておく。
    (5)フキは板ずりし、沸騰した湯でゆでて、水にとる。皮をむき、食べやすい長さに切る。
    (6)だし汁、酒、しょうゆ、みりん、塩に5を入れ、しばらく炊く。
    (7)フキとだし汁を別々に冷まし、冷めたら再び合わせて漬けておく。面倒なら、3に5の下ゆでしたフキを直接入れて炊いてもよい。
     ※奥田さんは、フキはだし汁に薄口しょうゆ、濃い口しょうゆ、みりんを合わせ、桜エビも加えて炊きあげました。

     

    <桜の花のご飯>
    (1)俵形のご飯に桜の花の塩漬けを添える。
     ※ご飯に白ゴマを混ぜ、香りよく仕上げました。隣には、蒸しエビとミツバ、甘じょっぱく煮たシイタケを具にしたのり巻きを。

    2014年04月30日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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