[連載:球児たちの明日]
(5)「らしさ」に伝統の重み

 高知市にある私立土佐高野球部元監督の篭尾良雄さん(66)の自宅には、監督を辞めた1993年に書いた自筆の書が掲げられている。

 「……ひたぶる全力疾走 純白の土佐 とわに輝け」。県内でも屈指の進学校である土佐高の生徒を「文武両道」をモットーに鍛え上げ、春夏で計7度甲子園に出場した。純白のユニホームと、全力疾走でベンチに駆け戻る姿が観客席の共感を呼んだ。土佐高の活躍をきっかけに、「白いユニホームと全力疾走」は、高校野球の理想的な姿とされた。篭尾さんは「(土佐高監督の)30年間、私自身もまた全力疾走でした」と感慨にふけった。

 勉強と野球。一つだけでも並大抵の努力ではない。「文武両道は全力疾走の気持ちでやらなければ成し遂げるのは難しい。ユニホームのように汚れのない心を持って」。篭尾さんが伝統に託した思いだ。

 茶髪や耳のピアスが珍しくなくなった高校生たち。しかし一方では、土佐高の伝統にあこがれて入学して来る生徒も多い。3年の町田直也主将(18)は、純白のユニホームにあこがれて土佐高進学を決めた。丸刈り頭の町田主将は「白いユニホームで野球がうまくなりたかった。僕らはこの伝統を自分で選んで、好きでやっているんです。ずっと続いてほしいと思ってます」と胸を張った。

 日本高校野球連盟も、こうした“高校生らしさ”が、永く続くことを望んでいる。頭髪については丸刈りの強制に反対している。だが、社会人野球や大学野球の観客数が低迷を続ける中で、高校野球は春、夏の大会で大勢のファンが訪れる人気の理由を、田名部和裕事務局長(54)は「(球児の)高校生らしさをファンも求めているからではないか」と考えている。

 神戸市須磨区の進学校、私立須磨学園は元の女子校から昨年、男女共学に替え、今年4月に部員11人で野球部を創部した。徳島・池田高の「さわやかイレブン」のような部を理想としている山本義雄監督(43)は、選手たちにあいさつの徹底や走ってきびきびと動くことを求めている。「本当は髪も短くしてほしいけど、スポーツ刈りぐらいまでは認めようかと思っています」と山本監督。「(丸刈りには)ちょっと抵抗を感じるな」と、はにかんだ2年、後藤恵介主将(16)の頭髪は、耳に届くぐらいで少し長めだ。

 頭髪の長さは時代を反映している。だが伝統の“高校野球らしさ”もまた、それを理想とする球児たちの手で、21世紀に伝わっていくのは、間違いない。(おわり)

(この連載は、榊岳央、島隆治、杉元雅彦が担当しました)

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