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    スクールデイズ

    多様な意見を認める先生…是枝裕和さん

    聞き手・鈴木あづさ

    映画監督

    • 高橋美帆撮影
      高橋美帆撮影

     父親はシベリア抑留から帰ってきた後、いろいろな職を転々としていて、生活は厳しかったです。

     母親は映画が好きで、僕も幼稚園の頃から一緒にテレビで、「カサブランカ」や「哀愁」なんかを見ていました。

     東京都立武蔵高校2、3年の担任だった国語の遠藤誠治先生も映画好き。映画を見るので授業を休講にしたこともあるんですよ。友人によると、「皆さんも僕の授業より大切なものがあるときは、休んで結構です」と説明したらしいです。

     僕が直接聞いていないのは、たぶん、さぼっていたから。先生は授業中、ぼそぼそしゃべって自分の意見を言わず、生徒が何か言うと、「ああ、そういう考え方もありますね」だけ。つまらないから、さぼってばかりいたんです。

     そしたらある時、先生から「是枝君は僕の授業がつまらないですか」と聞かれました。正直に「つまらないです」と答え、「なぜ自分の意見を言わないのですか」と質問しました。先生は「僕が教師という立場で意見を言うことで、皆さんの考えを封じ込めたくないのです」って。当時は「逃げたな」と思いました。

     でも、自分が物作りをするようになって、わかってきました。「この映画のテーマは何ですか」とよく聞かれますが、作り手が意識しているテーマなんて、本当は大したことじゃない。見る人が多様な感じ方をできるように作ることこそが大切なんです。

     だから高校卒業から20年たって、「あの時先生がおっしゃったことは間違っていませんでした。すみません」と手紙を書きました。それからは新作を上映すると、必ず感想を書いて送ってくれます。

     自分なりに考えて好きなものを一つつくることで、疑問が生まれ、それを解こうと必要な知識を吸収する。好きなものの点を広げて線にし、面にしていく、その作業が人を豊かにするのだと思います。(聞き手・鈴木あづさ)

    プロフィル
    これえだ・ひろかず
     1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業。95年に映画監督としてデビューし、2013年「そして父になる」でカンヌ国際映画祭審査員賞受賞。12月16日に「海街diary」のブルーレイ、DVDを発売。

     (2015年11月5日付読売新聞朝刊掲載)

    2015年11月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun