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    英語

    入試改革で日本人の英語音痴は直るのか?

    実用英語推進機構 代表理事、東進ハイスクール 英語講師 安河内哲也
     大学入試センター試験に代わり、2020年度から「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」、いわゆる新テストが実施される予定だ。現行のマークシート方式は知識偏重に陥りやすく、思考力や表現力が評価されにくいという批判に対応するものだ。
     このうち英語は「読む」「聞く」の2技能試験から、「話す」「書く」を加えた4技能試験への変更が予定されている。世界に通用する実用的な英語力を身につけ、日本を 牽引 ( けんいん ) するグローバル人材を育成するのが狙いだ。
     大学入試改革で、日本人は果たして英語が話せるようになるのか。一般財団法人・実用英語推進機構代表理事、東進ハイスクール英語講師の安河内哲也氏に、今回の英語入試改革の狙いと日本の目指す将来像について解説してもらう。

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    大学入試英語改革、4技能試験導入と日本の未来

    • 安河内哲也氏
      安河内哲也氏

     「みなさんは、英語が話せますか?」「英語で議論をしたり、交渉をしたりできますか?」

     この問いに対して、「英語は話せない」「英会話程度なら……」という思いを抱かれた方が多いのではないだろうか?

     日本の社会人はもとより、高校生・大学生の実用英語の力は、さまざまな調査によると、先進国の中でもかなり低いレベルと報告されている。

     これからの日本経済、日本社会のグローバル化を考えたとき、この事実が発展の足かせになる可能性は否定できない。

     この強い懸念に対応すべく、政府は、英語教育の在り方の見直しに積極的に取り組んでいる。2013年(平成25年)にスタートした教育再生実行会議。ここでは、「グローバル社会の中で我が国がどのように生き残るか」「英語力をいかに強化するか」など、さまざまな角度から学校教育、そして英語教育についての諸問題が取り上げられている。

     また文部科学省は14年、「英語教育の在り方に関する有識者会議」を設置し、今後の英語教育の在り方を議論した。この会議の中で、最も大きく取り扱われたテーマのひとつが「大学入試の在り方」である。

     15年に入ってからは、文部科学省が有識者会議(高大接続システム改革会議)を開き、高校教育と大学教育をつなぐ大学入試の新しい仕組み作りについて議論を重ねている。

    まずは大学入試制度の内容を

     日本のような東アジアの国々において、特に学生は、英語の学力の習得に大学入試やテストの影響を大きく受けがちだ。生活の中で、直接英語を使う機会や必要性がさほど多くはないからだ。入試やテストの影響力が強くなればなるほど、学生の英語学習は入試やテストに出題される内容が中心になってしまう。そこに、日本の学生に実用的な英語力が身につかないひとつの要因が潜んでいるのである。

     日本における大学入試の影響力の大きさは、読者の皆さん、受験生、お父さん、お母さん、みなご存知のことと思う。受験生の将来と人生に大きな影響をもたらすという事実は、なかなか否定できるものではない。

     もちろん、この影響力を長い年月をかけてさまざまな方法で分散させていくことは重要だ。しかし、近い将来にかけては、まずは入試制度の内容そのものを、より良いものに改革していくことが緊急の課題となるのである。

    入試英語の問題点

     それでは、大学入試の英語の何が問題なのだろうか?

     中学や高校の先生たちは、英語科の学習指導要領に従って、授業をしなければならない。実はこの学習指導要領は現在も、世界の言語教授法の研究成果を反映した非常にバランスのよい内容となっている。この中では、「読む」「聞く」「話す」「書く」という、言語学習における4領域のバランスをとること、また、これらを融合して指導することが求められている。文部科学省の教科書検定に合格した、いわゆる検定教科書もこの理念のもとに作成されている。

     しかし、ここで大きな問題が発生する。

     大学入試、特に個別の大学の入試が、この学習指導要領とかけ離れている、という問題である。

     英語の4技能どころか1技能しか試さない入試もあれば、学習指導要領解説の中で「授業の中心に据えるべきではない」とされている翻訳だけを課す入試など、高校における指導との連携がまったく取れていない入試が多く見受けられるのである。

     そうなると、何が起こるだろうか。

     大学への進学を希望する生徒と学校の先生は、この2つの価値観の板ばさみとなり、非常に苦しむこととなるわけである。

     受験の時期が近づけば近づくほど、授業はだんだんと受験寄りになり、偏った内容になってしまう。仮に学校が、学習指導要領通りの指導を固守したとしても、民間の予備校や塾、出版物がどうしても受験に偏った英語を供給しがちになるため、受験生の英語学習が偏ってしまうのである。

     個別の大学の入試には、さらに問題がある。

     世界で認められている試験であれば、それぞれの問題にはしっかりとした出題意図があり、それが公表されている。そして出題する試験機関は、評価基準、採点方法を開示する努力をするのが普通だ。試験問題の形式を変える場合には、受験生への事前告知を行い、試験後には統計データを公表するなどして、その形式変更の信頼性を確保する努力をする。

     また実質上、語学のコミュニケーション能力の世界標準となっているCEFR(Common European Framework of Reference for Languages、ヨーロッパ言語共通参照枠と呼ばれている)との整合性を確保するため、さまざまな検証を行い、その学術的研究を公表することが多い。

     ところが、現行の大学入試センター試験以外の入試問題では、このような当たり前の検証がほとんど行われていないのが実態だ。日本のグローバル化を牽引する役割を担うような大学でさえも、そのような傾向が見て取れるのである。これは由々(ゆゆ)しき事態である。

    国際的に通用する試験に

     このような現状の英語の入試問題を、既に世界で主流となっている4技能試験に代替していこうというのが、現在の改革姿勢である。ある意味、試験作成側は当たり前のことを実践すればいいのである。

     日本の学習指導要領およびCEFRを参照して作成されている日本の4技能試験は、現在の個別の大学の入試よりは、はるかに国際標準に近い。また、日本の高校生のレベルに合わせてある。そして、レベルは高いが国際通用性のある外国製の4技能試験との親和性も高い。日本の学生がこれからどんどん世界に出て行く大きな助けになるだろう。

     ◇主な英語4技能試験の概要はこちら

     導入に積極的な上智大学をはじめ、早稲田大学、明治大学、近畿大学など、すでに多くの大学が、4技能試験を段階的に導入することを予定している。また大学入試センター試験に代わる新テストの英語は、官民連携のような形で4技能試験を導入することが予定されているのである。

     もちろん、改革が実現するには10年、もしくはそれ以上の時間がかかることも想定される。そして今後、さまざまな紆余曲折(うよきょくせつ)も起こるであろう。しかしまさに今、改革への第一歩が踏み出されようとしているのである。

     だが、4技能試験になったからといって、受験生の大学入試対策自体がなくなるわけではない。高校での入試対策そのものは、今後も続くだろう。なので、教育現場での指導が入試対策に寄りすぎないよう、留意する必要は引き続きある。それでも現在の偏った入試が、偏った対策を生み、英語教育を荒廃させている状況よりは、高校での英語教育がはるかによくなり、生徒たちに多大な恩恵をもたらすであろうことは間違いないと思う。

    2015年11月12日 10時52分 Copyright © The Yomiuri Shimbun