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    受験

    公立中高一貫校と医学部が問う「公共心」

    一橋大学博士(法学)、作家 小林公夫
     中学入試の本番が近づき、どの学校を受験するのか、いよいよ決める時期に入った。中でも、私立校よりも安い学費で6年間学べる公立中高一貫校は、大学進学実績も上がっており、各地で人気が年々高まっている。公立中高一貫校への入学志願者に求められている能力・資質とは何か。『公立中高一貫校』(ちくま新書)、『わが子を医学部に入れる』(祥伝社新書)の著者で、医学部受験の指導歴が長い小林公夫さんは、公立中高一貫校と大学医学部の入試には意外な共通点があると指摘する。

    新たに求められている「資質」…公立中高一貫校の適性検査

    • 公立中高一貫校の適性検査問題では、「公共性」「公共心」「社会貢献」を理解する力があるかどうかが問われている(写真はイメージです)
      公立中高一貫校の適性検査問題では、「公共性」「公共心」「社会貢献」を理解する力があるかどうかが問われている(写真はイメージです)

     私は以前、我が国で実施されている様々な試験の構造には、共通する一定の法則があり、その背景には共通して問われる能力、つまり同一の要素(能力因子)が潜んでいることに気づきました。

     そして、『論理思考の鍛え方』(講談社現代新書)という著書の中で、「推理能力」「比較能力」「集合能力」「抽象能力」「整理・要約能力」「直感的着眼能力」のほか、それらの能力に優先順位をつけて物事を解決する「因子順列能力」という、人間の根幹となる7つの能力因子を体系的にまとめました。「各人が年齢を経るうちに、その7つの能力が土台となって幹や枝を伸ばして系統樹のような広がりを見せる」との仮説を提唱したのです。

     私は、この仮説は大筋として今でも通用すると位置づけています。ですが最近、この人間の能力の「系統樹」には、基本の7つの能力因子とは異なる、新しい因子が付け加えられるべきではないかと、考えるようになりました。

     実は、ここ数年間に行われた各地の公立中高一貫校の適性検査問題に目を通していて分かったのです。私立校の入試問題が「理数系」にかなりの重点を置いていることに対して、公立中高一貫校の問題を詳細に分析してみると、従来型の能力因子だけでは説明のつかない要素、言い換えれば新しい「資質」が問われ始めていました。

     その中でも、私が特に注目しているのが、子供たちが「公共性」「公共心」「社会貢献」を理解する力、その能力です。

    世界遺産とゴミ問題、自転車通学とヘルメット…「公共心」との関連は

    • 世界遺産登録の前年に、ボランティア団体によって膨大なゴミ回収が行われた富士山
      世界遺産登録の前年に、ボランティア団体によって膨大なゴミ回収が行われた富士山
    • 「富士山の世界遺産登録とゴミ問題」についての資料グラフ(佐賀県教育庁提供)
      「富士山の世界遺産登録とゴミ問題」についての資料グラフ(佐賀県教育庁提供)

     公立中高一貫校は1994年、宮崎県立五ヶ瀬中学校・高等学校(現・宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校)の設立から始まり、学校教育法が改正された1999年に制度化されました。6年制の「中等教育学校」、高校からの入学もある「併設型」、同じ地域の中学・高校が協力する「連携型」があります。

     文部科学省の調査によると、全国の公立中高一貫校は2013年度、184校にのぼりました。「中等教育学校」は29校、併設型は74校、連携型は81校です。入学希望者に対しては、私立校とは異なり、学力試験の代わりに適性検査を行います。

     税金を使って設立された「公立校」であるため、適性検査問題で「公共性」「公共心」を問う傾向が当初からありましたが、2013年入試では特に目立ちました。

     2015年はそれほどではなかったものの、『2016年度受検用 公立中高一貫校適性検査問題集』(みくに出版)によると、佐賀県立の中高一貫校の共通問題として出題された「富士山の世界遺産登録とゴミ問題」「自転車通学とヘルメットの着用」、神奈川県立校の共通問題の「食生活と朝食の役割」など、やはり「公共性」「公共心」を問いかけるテーマが相次ぎました。

     さらに「居住する地域をより住みやすくするために何ができるか」という形で、ストレートに「公共性のあり方」を問う内容の出題(新潟県立校の共通問題)もありました。

     ランダムにご紹介した問題が、なぜ「公共性」「公共心」「社会貢献」と関連するのか、すぐには分からないかもしれません。しかし、それぞれの問題が根っこの部分で深く関連しています。

     「富士山の世界遺産登録とゴミ問題」については、富士山が世界遺産に登録された平成25年(2013年)の前年に収集された膨大なゴミの量を示すグラフが示されており、それを読み解く力が試されています。

     ここには読み取るべき2つの側面があります。1つは登山者の「公共心」のなさです。つまり、山中で平気でゴミをポイ捨てする習性です。回収された量を考えただけでも、実際にはどれだけのごみが捨てられていたのかは、想像をはるかに超えます。

    一方で、そのゴミを無償奉仕で拾い集めて、日本の美を、ひいては自然環境を守ろうとする人たちの「公共的側面」が少なくとも見てとれるのです。公立中高一貫校の入学の扉を開くためには、少なくともこういう理解をすることが必要です。

    2015年12月24日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun