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    子育て・生活・文化

    正月を知らない子どもたち…貧困がもたらす国の損失

    立教大学教授 湯澤直美

    328万人の貧困…将来の経済にも大きな打撃

     このような貧困のすそ野は広がっている。先進諸国における貧困層の割合を把握する指標のひとつに、相対的貧困率がある。日本の子どもの相対的貧困率は年々悪化し、最新のデータでは16.3%(2012年データ:厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。0歳から17歳の子どものうち、約6人に1人が貧困状況にあることになる。

     実数では約328万人。2014年の出生数が約100万人であることと比べると、その3倍以上に相当する数字だ。経済協力開発機構(OECD)加盟34か国でみると、日本の貧困率は高いほうから11番目に位置する。

     そのような現状をふまえ、2015年12月、日本財団は『子どもの貧困の社会的損失 推計レポート』を発表した(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社との共同事業)。子ども時代の経済格差が教育格差を生み、将来の所得格差につながるという想定から、格差を放置したままでいるとどのような経済的な影響があるかを推計した報告書である。

     推計の結果はどうだったか。現在15歳の子ども(約120万人)のうち、生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子ども約18万人だけでも、経済的損失は約2.9兆円に及び、政府の財政負担は約1.1兆円増加する、という。

     「貧困」というと、とかく困窮した家庭や個人の問題として語られることが多い。それゆえ、貧困対策を講じることについては、「一部の人々に税金がつぎ込まれる」という感覚に陥りやすい。しかし、このレポートは、「個」の視点を超えて、「経済」の視点からアプローチしている点が特徴だ。子どもの貧困をそのまま放置すると、将来の国民の所得が低下する。それは、消費の低下を招く。そうすると、国内市場の縮小が一段と加速する。人口減少時代に突入している今、子どもの貧困対策を慈善事業として捉えるのではなく、経済的効果をもたらす経済対策として捉える必要を、データを使って訴えている。

     持続可能な社会の鍵は子どもの貧困対策への投資にある。あなたはどう考えるか、ぜひレポートを一読してみてほしい。

    経済的損失2.9兆円、財政負担1.1兆円

    • 貧困家庭の子どもたちに届けるために集められたお菓子(フードバンク山梨提供)
      貧困家庭の子どもたちに届けるために集められたお菓子(フードバンク山梨提供)

     レポートの内容を簡単に紹介しよう。貧困世帯とそうでない世帯では、進学状況が異なるために、最終的な学歴や就業状況にも差が生まれる。この状況を改善しなければ、貧困世帯の子どもは将来にわたり賃金水準が低くなり、一生のうちに受け取る所得(生涯所得)が低位になる。

     そうすると、政府が徴収する税収や社会保険料収入も低下する。一方、生活保護費などの社会保障給付費は増加することになる。

     そこで、進学や進路に差が出る中学卒業時に着目する。子どもの貧困対策を行わず進学率や就労環境に格差が残る状況(現状シナリオ)と、子どもの貧困対策により教育・所得格差が一定程度は改善される状況(改善シナリオ)を比較してみるのである。

     まずは、現在15歳の子どもが19歳~64歳までに得る所得の差を把握した数字をみてみよう(図1)。64歳までに得る所得の合計は、現状シナリオより改善シナリオのほうが2.9兆円増えている。言い換えれば、子どもの貧困対策を行わない場合、将来的には約2.9兆円の市場の縮小、すなわち経済損失が生まれることを意味する。

     このような所得の差は、税・社会保障費用の個人負担額(個人が納める額)の差となって現れる。そこで、国民が負担する税や社会保険料の合計額から、生活保護費など社会保障給付額を差し引いた金額がどの程度かによって、政府の財政負担は増減する。これを「税・社会保障の純負担」として推計した結果、改善シナリオよりも現状シナリオの方が、約1.1兆円少ない。このことは、子どもの貧困対策を行わないと、政府の財政負担は約1.1兆円分増加することを意味している。

    • (図1)二つのシナリオでの推計結果  出典:日本財団・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2015)「子どもの貧困の社会的損失 推計レポート」
      (図1)二つのシナリオでの推計結果  出典:日本財団・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2015)「子どもの貧困の社会的損失 推計レポート」

     注意しなければならないのは、貧困家庭全体を網羅することは難しいため、この推計は生活保護世帯・児童養護施設・ひとり親家庭を対象として、その1学年に限定している点である。つまり、「全年齢、さらにはこれから生まれてくる子どもについても考慮すれば、経済への影響は甚大となる」と、レポートは警鐘を鳴らす。

    2016年01月15日 10時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun