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    子育て・生活・文化

    正月を知らない子どもたち…貧困がもたらす国の損失

    立教大学教授 湯澤直美

    保育は貧困家庭を支える重要な制度

     今回の社会的損失のレポートが提起している重要なメッセージは、子どもの貧困問題は、政策の関与によって一定程度は解決が可能である、ということではないだろうか。

     諸外国の先進事例が示しているように、人生のスタートライン、いわば乳幼児期からの早期発見と早期支援が何よりも欠かせない。親の妊娠期からのアプローチも重要だ。幸いにも、日本には保育制度が公的責任のもとで発展してきた経緯がある。仕事と子育ての両立支援として保育が必要なばかりでなく、貧困家庭を守る最前線の社会資源としてより機能させる政策が期待される。

     保護者支援も欠かせない。子どもの育ちの保障という観点から雇用労働のあり方を見直すためには、長時間労働やワーキング・プアの解消は必須である。

    広がる民間団体の支援

    • フードバンク山梨の取り組み
      フードバンク山梨の取り組み

     貧困がもたらすものは、経済的困窮ばかりでない。人間関係・社会関係からの孤立を深め、精神的に追い詰められていくのである。

     学校があれば、暖房があり、給食を食べることができる。貧困家庭にとって、学校の長期休暇は楽しみどころか、親子ぐるみで苦しさが増す期間になる。このような困窮状況にある人々を支援するために、食料を届けるフードバンクの活動も各地に広がりつつある。フードバンク山梨では、子ども支援プロジェクトを企画し、食料支援を必要としている世帯に、クリスマスの時には食品とともにプレゼントを届ける活動を実施した。届ける箱のなかには、クリスマスカードと手作りリースも添えられている[4]。

     また、大阪子どもの貧困アクショングループでは、年末年始に3泊4日、古民家で一緒に年越しを過ごす「年越しツアー」を実施している。大晦日にはみんなで初もうでに行き、お正月には手作りのおせち料理を味わい、まるで実家への里帰りのような時間になる。ツアーに参加できない親子にも、ボランティア特製のおせち料理を届けている。年越しでみんな買い物袋をいっぱい持っている姿をみて悲しい気持ちになっていた親子が、届いたおせちと手紙をみてとても幸せな気持ちになれたという[5]。

    子どもを孤立に追い込む貧困

     若者にとっても新春の壁がある。たとえば、各地で実施される成人の日の行事。成人式に参列するには、コート、スーツ、それらにあう靴がいる。女性ならば、振袖も多い。貧困家庭ではとても購入できないが、レンタル費用の拠出も難しい。それゆえ、出席さえできない若者もいる。

     子どもから大人への節目として大事なこの行事にも、格差がつきものだ。社会的に標準とされる暮らしを維持するには、「個人の暮らし」ばかりでなく、このような社会的な機会や社会関係に参画する「社会的な暮らし」も欠かせない。その機会から遠ざかるほど、貧困は社会的排除となって、子ども/若者を孤立に追い込んでいくのである。

     子どもの貧困問題は、いわばまっとうな社会、公正な社会をいかに創るのかを問うている試金石でもある。いまこそ、大人たちの英知を寄せ集めたい。

     

    [1] この推計では、全国消費実態調査を基にした推計も行われている。また、貯金や住宅ローンなどの資産の保有要件も考慮した生活保護基準未満の世帯数の推計もある。

    [2] 本稿では、個人が特定されないよう、趣旨を損ねない範囲で事例は加工している。

    [3] 『若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状<2>-平成24年版「就業構造基本調査」より-』独立行政法人 労働政策研究・研修機構、2014年

    [4] フードバンク山梨のホームページを参照。

    [5] 大阪子どもの貧困アクショングループのブログを参照。

     

    プロフィル
    湯澤直美( ゆざわ・なおみ
     立教大学コミュニティ福祉学部教授。専門は社会福祉学。現在、 子どもの貧困研究プロジェクト を運営し、子どもの貧困の解決に向けた研究を進めている。編著書に、『子どもの貧困白書』(明石書店)、『子どもの貧困-子ども時代のしあわせ平等のために』(明石書店)、『福祉政策理論の検証と展望』(中央法規)など。
    2016年01月15日 10時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun