文字サイズ
    学校、受験など教育に関する掘り下げた記事をタイトルごとに掲載します。
    子育て・生活・文化

    がんばり過ぎるな“ひとり親”…子のひきこもりを防ぐコツ(2)(下)

    ニート・ひきこもりの子を持つ親の会「結」事業責任者兼相談員 蟇田薫
     離死別に限らず、別居などで実質的な“ひとり親”の家庭で、子どもをひきこもらせないためにはどうすればいいのか。また、ひきこもりがちな子どもにどう対処すればいいのか。「ニート・ひきこもりの子を持つ親の会『結』」相談員の 蟇田 ( ひきた ) 薫さんが、前回に引き続き、“ひとり親”家庭が困難に陥りがちな状況を解説し、改善のためのヒントをお伝えする。

    ※「ニート・ひきこもりの子を持つ親の会『結』」2009年から、約1000家族の相談を受けてきた。東京都立川市の認定NPO法人「育て上げネット」が運営。15年秋には「結」メンバーが監修・協力し、上大岡トメさんのマンガで対策をわかりやすく紹介した『子どもがひきこもりになりかけたら』(KADOKAWA)も出版された。

    「子どもがひきこもりになりかけたら」…マンガで出版

    情報不足ゆえ、子どもを「分身化」してしまう父親

     “ひとり親”が父親の場合は、母親の役割も務めようとするため、世の中の厳しさを教え、対立しても導く、つまり子どもを社会化していくような「父性」が家庭の中で薄れたり、逆により強くなり過ぎたりしてしまいがちです。

     時間的・経済的に余裕がない状態で母親の役割も担おうとすると、生活することで精いっぱいになります。そうした状況では、子どもに対し、社会で生きる意味や現実の厳しさ、それでも生きていくことの充実感などを教えることがなかなかできません。つまり、いい意味での「父性」を発揮することが難しくなってしまいます。

     一方、父性が過剰になってしまう場合も少なくありません。一般に父親は、子どもの誕生期から教育期にかけて子育てに参加する機会や時間が限られます。このため、「等身大」のわが子をよく知らず、それがゆえ「自分の子どもなんだから」と、わが子を自らの「分身化」してしまう傾向もあるようです。

     例えば、英語が好きで得意な父親が、自分の子どもも好きだろうと英語教育に力を注ぐケースなどがあります。残念ながら、子どもはそんなに打ち込むほど英語を好きでないと、成績は上がらず、途中で英語を放棄してしまったりします。これは父親にとって「想定外」。子どもの行動を理解しようと考えてもわからないため、「どうして出来ないのだ!」と怒ってしまい、「否定」「批判」「非難」の“禁断の3H”で子どもを責めてしまう。すると、子どもとの間に溝が深まり、関係修復に時間がかかってしまうのです。

    [ひきこもる子と“ひとり親”エピソード(2)]

    母が単身赴任、息子を「分身化」してしまった父
    • ©上大岡トメ/KADOKAWA
      ©上大岡トメ/KADOKAWA

     IT系の会社を辞めて独立した自営業の父と、会社勤めで総合職の母。長男の高校入学とともに、母は管理職として地方に単身赴任。実質的な父子家庭となっていた。父は数学が大好きで息子も得意と思いこみ、長男の大学受験で志望校を決める際に自らの母校の理工学部を薦め、長男は合格。しかし、まもなく欠席しがちになった長男に父は「なぜ学校に行かない、学校は卒業するものだ!」と強く問いただしてしまう。長男は部屋に閉じこもり、1年休学後、大学を中退。ひきこもり状態になる。
     父もどうやって声をかけてよいかわからず、全く会話がない生活に。ある日、父は、新聞記事でひきこもりの支援サービスを知り、相談に訪れた。

     

    [「結」の助言とその後の動き]

    1. 相談内容から、長男の方も関係を修復したいと思っているように感じられたので、まずは、家庭内で挨拶をかわしてもらうところから始めた。父が外出する際は返事がなくとも声かけするようにし、朝晩の挨拶は定期的に、時には長男の部屋の外からでもしてもらった。
    2. 1を続けていたら、ある日、本人から、「おはよう」と一言。そこから、少しずつ世間話を始めた。一緒にテレビを見ながら雑談を続ける。
    3. 雑談の中で、ある日、父が支援機関に相談に行っていることを聞き、長男は驚く。父の誘いで一緒に相談に行くことを承諾。
    4. 現在、支援機関で相談しながら、資格を取るため専門学校の入学準備中。週3回、近くのコンビニでアルバイトも始める。
     本当は長男が勉強したかったのは文学で、作家の夢も持っていた。希望と異なる大学で授業についていけなくなったとき、父に正直に話したかったが、合格時に「俺の息子だからな~」と大変喜んだ姿を思い出すとつらく、口に出せなかった。プレッシャーとともに、父の悲しむ姿を見たくないがために部屋にこもった。中退後はさらに自信をなくし、社会につながるきっかけがわからなく家にいるしかなかったという。雑誌などへ投稿しようと、今も小説は書いている。

    2016年02月16日 09時36分 Copyright © The Yomiuri Shimbun