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    企業も学生も不幸に? 就活最前線の悲劇の理由

    人材研究所社長 人事コンサルタント 曽和利光
     2017年春に入社予定の大学生らを対象にした企業の選考活動が、6月1日に解禁されてから1か月が経過した。ふたを開けてみれば「解禁日はすでに終盤戦」とも伝えられるが、実態はどうなっているのだろうか? 企業の採用に詳しい人材研究所の曽和利光社長に解説してもらった。

    解禁したとたんに終盤戦

    • (写真はイメージ)
      (写真はイメージ)

     2017年春入社組の大学生らを対象にした企業の選考活動は、6月1日の解禁(経団連の倫理憲章による解禁日)から1か月が経過しました。解禁時点で半数以上の学生が内定を得ているとの調査報告もあり、既に企業の選考活動(学生の就活)は終盤戦ともいわれています。なぜこのようなことになっているのか、実態を探ってみたいと思います

     昨年(16年卒業)から始まった、いわゆる就活の「後ろ倒し」。それ以前(15年卒以前)は、会社説明会など「採用広報の開始」が大学3年の12月から、面接などの「選考開始」が大学4年の4月からとなっていました。それが、昨年は「採用広報の開始」が大学3年の3月に、「選考開始」が大学4年の8月からにそれぞれ「後ろ倒し」されました。そして今年(17年卒、今の4年生)は、「選考開始」だけが8月から6月に「前倒し」となったのです。これは、外資系企業や大手ベンチャー系など経団連ルールに縛られない人気企業が早めに採用を始めていることへの対抗措置でした。

    • 就職活動のスケジュール
      就職活動のスケジュール

    “水面下”化が進んだために

     このことが生みだしたのは、大手企業の採用の「水面下化」です。具体的に言うと、一つは、リクルーターと呼ばれるOB・OGへの訪問です。これは、学生が出身校の先輩社員らと内々に(水面下で)面談するもので、実質的には学生の就職活動(=企業の採用活動)と変わりありません。

     もう一つは、インターンシップ(就業体験)と呼ばれるものです。これは大学3年生以下を対象に行うプログラムで、その会社の事業に触れ、仕事への自分の適性を知ることができます。表向きは就業体験ですが、実質的には選考活動につながると考えていいでしょう。今では、多くの企業が「いい学生を採用せん」とばかりに、インターンシップを実施しています。

     このような水面下での採用活動のため、本来、選考「開始」日であるはずの6月1日は、水面下の動きが「表面化」するだけの日になってしまったのです。極端な例では、6月1日は会社に呼ばれて「人事担当者から内定を伝えられるだけ」というケースもあったようです。

    生まれた「就活格差」

     その結果、生じた大きな問題があります。それは、「就活格差」という問題です。“水面下”で進められる大企業の採用活動は、偏差値の高い上位校に限られるという現実があるためです。その結果、網にかからないランクの低い学校の学生からすると、水面下採用で採用枠の何割かが埋まってしまうので、自身にとっては「大手企業への就職」が非常に狭き門になってしまうのです。

     中堅校の学生から、「始まったばかりのはずなのに、もう大手企業の求人が締め切られているのはおかしい……」と嘆く声も耳にしました。学生間に生じた「就活のチャンスの格差」は、大企業への就職を渇望する中堅校の学生にとって、大きな不満となっているのです。

     一方、「就活のチャンスの格差」は大企業にとっても大きな問題となっています。昨今の大企業は、多様な才能の学生を様々な大学から採用したいという傾向があります。人材のバランスこそが企業の価値を高める、と考えているからです。しかし実際には、「就活後ろ倒し」で採用にじっくりと時間をかけることが難しくなり、「学歴差別」にも見えかねない水面下での採用を実施せざるを得なくなったのです。

     大企業の採用担当者は、一流大学以外にも有能で将来性のある優秀な人材がたくさんいることを百も承知です。ですが、時間的な制約が大きい……。というわけで、思い通りの採用ができないことに地団太を踏んでいるのです。

     この事態は、「就活後ろ倒し」が引き起こした、誰も幸せにならない「悲劇」といえます。そしてもっと大きな視点で見れば、日本の産業全体にとっても大きなマイナスといっても過言ではないでしょう。

    2016年07月01日 09時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun