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    子育て・生活・文化

    親の焦りが招く中高生の「悪い留学」

    EF総合教育研究所研究員 平尾諭
     “グローバル人材”の育成が叫ばれる昨今、中高生の子どもを持つ親たちの“留学熱”も高まりつつある。だが、「親の強要ではうまくいかない」と注意喚起するのは、中高生の留学事情に詳しいイー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパンの平尾諭さんだ。平尾さんに「いい留学」と「悪い留学」について解説してもらった。

    英語ができないと就職できない?

    • 期待に胸を膨らませ…
      期待に胸を膨らませ…

     留学相談などを日々の業務で行っている私どものもとには、中学生や高校生がたくさん訪れ、直接、話をする機会が多くあります。そこで耳にする、いまどきの中高生の声の中に気になる言葉が……。彼らは、こんなプレッシャーを日々、浴びているといいます。

     「英語ができないと将来就職できないぞ!」

     最近、わが子を中高生のタイミングで留学させたいという親が増えています。早い時期から英語に慣れさせたいという親心からです。しかし、キャリアへの意識がまだまだ薄いこの時期に子どもを「留学」させることは、正しい選択なのでしょうか? 「英語」を身につけることは、将来のキャリアにおいて本当に必要なのでしょうか? みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

    「グローバル化」という言葉への不安

     「グローバル化」「グローバル人材」といった言葉が広がり始めたのは、1990年代ごろからです。インターネットの普及などによるビジネスの世界規模の拡大が一因です。しかしその実態は、いまひとつ、はっきり“これ”と(つか)めるようなものではありませんでした。そのため、漠然(ばくぜん)とした“不安”と化して今日に至るのが現実です。

     子どもを持つ親たちは、その“不安”を解消しようという思いから、まずはわが子に留学を勧め、海外経験させようとしています。しかし、その“留学熱”の結果としてもたらされるものは、必ずしも望むような成果となっていないのが実態です。

     私は、もし親御さんが、「わが子の将来と真剣に向き合おう」と考えているのであれば、まずは「よい留学とは何か?」「悪い留学とは何か?」をきちんと理解してから実行に移していただきたいと考えています。そのためには、現在の教育環境の真の姿を知ることが大切です。

    変わる高校英語教育、語学留学の必要性は

     この約20年間、子どもを持つ親御さんの多くが、わが子の将来に不安を募らせた背景には、一向に変化を見せない日本の教育問題があるといえます。

     特に中学・高校の英語の授業。これは、いまだに「This is a pen…」を教える非実用的な英語です。このような授業では、グローバルな人材なんて目指したくても目指せるわけがありません。そこで苛立(いらだ)ちを募らせた親御さんたちは、英会話教室や語学留学など、いわゆる私費教育の道を選択することに至ったのです。

     ただ、2013年頃からは、変化も見られます。政府が重い腰をようやく上げ始めたのです。国際社会に通用する人材育成のために、複数の企業から支援を募り、総額約200億円規模の留学奨学金プログラム“トビタテ! 留学JAPAN”を始動。毎年、1000人近い高校生、大学生を海外へ送り込むようになりました。

     また14年から、「国際社会で活躍する人材の育成」を目的とした教育改革で、スーパーグローバル大学(SGU)、スーパーグローバルハイスクール(SGH)などの枠組みをスタート。日本人留学生倍増計画も打ち出しました。

     さらに、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、近年では、高校英語の学習指導要項にもメスが入りました。英語の4技能(話す・聞く・書く・読む)のうち「話す」と「聞く」に力を入れることが示されました。今後は、「英語スピーチ」や「英語でのディベート」なども本格的に導入され、発信力の強化を目指します。

    グローバル教育加速のワケ

     ここ数年で、なぜこんなにグローバル教育強化の動きが加速しているのでしょうか? そこには、教育面で浮き彫りとなったグローバル化への二つの大きな問題があるのです。

     一つは、日本人留学生の減少と、開くばかりの近隣アジア諸国との差です。

     冒頭に紹介しましたが、将来への不安から、わが子を海外へ送り込みたいという家庭が増えているのは紛れもない事実です。しかし、少子化や家庭の経済的事情などにより、日本人留学者の数は、04年を境に減少傾向にあるのが現実なのです。

     一方、韓国や中国の学生の留学者数は、年々、増加傾向にあります。その結果、国際経験を持ち、なおかつ、言語能力に()けた学生数の差は開くばかり(当然、日本は引き離される立場)なのです。

     二つ目は、日本の大学をグローバルな視点で見ると、世界ランクの上位にまったく食い込めないというのが現状です。

     例えば、数ある大学ランキングのなかでも注目度が高いとされる“タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(2014)”では、東京大学が23位、京都大学が52位と100位以内に選出される日本の大学はたったの2校です。このとおり、上位を占める欧米諸国などとは、学術面において大きな差があるのが実情なのです。

     つまり、日本が「グローバル化」の波に対応できず、ずるずると来てしまったこの20年間に、諸外国はどんどん「グローバル人材」を育成し、気づいた時には大きく水をあけられていたということなのです。このため政府の尻に火が付き、対応せざるを得なくなったということです。

     

    2016年08月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun