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    「マクる?」「り」…中高年を煙に巻く若者の略語

    国立国語研究所教授 窪薗晴夫
     「り」「マクる」「ポルノ」――。若者たちが生み出すさまざまな略語は、ときに中高年を混乱させる。省略され過ぎて、話し言葉ではもちろん、文字を見ても意味が伝わらないことさえあるほどだ。だが、そんな略語にも、実は長い歴史と伝統があるという。国立国語研究所教授の窪薗晴夫氏に解説してもらった。

    「り」――ここまで来た! 究極の略語

     最近、ある若者から、ラインやフェイスブックで「り」という略語を使っているという話を耳にしました。中高年の方でこの「り」の意味が分かる人はどのくらいいるでしょうか? 私はそう多くはないと想像しています。

     正解は、「了解」の意味です。

     スマートフォンで「りょうかい」の5文字を入力したり、漢字に変換したりするには、入力モードにもよりますが、「り」の1文字を入力する場合に比べれば多くの労力を要します。短時間にたくさんの内容を伝えたい若者たちにとって、欠かせないのが入力の省力化。その目的に照らせば、仮名1文字の「り」は「究極の略語」と言えるかもしれません。

     しかしながら、一般的な略語は、仮名2文字以上の長さを持っているのが普通です。たとえば「ストライキ」は「スト」、「ロケーション」は「ロケ」などと略します。仮に「ス」や「ロ」と1文字に略されたら、元の単語を推測することは至難の業になるでしょう。

     「了解」を「り」と略すことができるのは、モニター画面などに映し出されることが前提の「書き言葉」だからです。日常会話などの「話し言葉」で使ったら、まず意味は通じません。会話の中で略語を使って何かを伝えるためには、最低でも仮名2文字分の長さ(これを専門用語で2モーラといいます)が必要になるのです。

    略しすぎ? スカートを押さえた先生

     私は日本語を学んでいる外国人と接する機会が多くありますが、彼らはいつも「日本の略語は難しい。理解しにくい」と口にします。日本語を学び始めて日が浅い彼らにとって、それは当然だと思います。それどころか、生まれて何十年も日本語に接してきた中高年の日本人にとってさえ、若者たちが作り出す略語を理解するのは厄介だと思います。

     一例として、知人の大学教員(女性)に聞いたエピソードを紹介しましょう。

     ある日の朝、大学近くの駅で顔見知りの男子学生に会い、話をしながら大学に向かっていると、その学生が突然、「先生、ちょっとマクっていいですか?」と聞いてきたそうです。

     女性教員は驚き、思わず自分のスカートを押さえたとのこと。一方の学生は、平然とマクドナルドの店内に入っていったといいます。

     学生にしてみれば、マクドナルドに行く(買いにいく)ことを「マクる」という略語で話したわけですが、女性教員の「脳内辞書」にはそんな略語は存在しなかったので、「まくる=衣類を上にあげる」という意味に受け取ってしまい、とっさにスカートを押さえるという自己防衛(?)につながったというわけです。

     「マクる」のような略語は、固有名詞などを略した上で「る」をつけ、そこに立ち寄り、何かをすることなどを意味する動詞です。ほかにも、「モスる(<モスバーガー)」「カフェる(<カフェ)」「ビリる(<ビリヤード)」「ビヨる(<美容院)」など、若者が立ち寄りそうな場所の数だけあると言えます。「キモい(<気持ち悪い)」「キショい(<気色悪い)」「ケバい(<けばけばしい)」「ムサい(<むさくるしい)」などの形容詞もよく使われています。

    2016年09月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun