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    「オノマトペ」をあなどれない三つの理由

    国立国語研究所教授 石黒 圭
     「サクサク進む」「不快なシャカシャカ音」「ぬるぬる動く動画」――。私たちが何げなく使う擬音・擬態語の「オノマトペ」には、実はものすごい力がある。あのお菓子の名前にも、あの名曲の歌詞にも、それから病院でも、オノマトペが使われている。国立国語研究所の石黒圭教授が、実例をばんばん挙げながら、すらすらと解説する。

    「じーん」「ボトッ」…想像力を刺激

     「ピンポーン」。この言葉を見て、何をイメージしますか。「誰か来たのかな」と思った人は、玄関のインターホンを押した音をイメージしたのでしょう。一方、クイズ番組をイメージして、「正解!」と思った人もいるでしょう。

     「じーん」という言葉はどうでしょうか。いい音楽を聴いて感動したときに使う「じーん」もあるでしょうし、長時間正座をして足がしびれたときに使う「じーん」もあるでしょう。

     「ピンポーン」のように音に似せた言葉を擬音語、「じーん」のように様子に似せた言葉を擬態語、合わせてオノマトペと言います。

     オノマトペは幼児語としてよく使われます。くすぐるのは「こちょこちょ」、拍手は「パチパチ」、のりで貼るのは「ぺたぺた」、うがいは「ガラガラペッ」と、子ども向けに表現できます。そのせいか、オノマトペは子どもっぽい、取るに足りない言葉だと誤解されがちです。しかし、もしオノマトペがなければ、日本語による感性的な表現力は大きく損なわれてしまうでしょう。この記事では、そのことを明らかにするために、オノマトペが持つ三つの力を紹介します。

     一つ目は、リアルな状況を想像させ、話を盛り上げる力です。「玄関の扉を開けたら、上から何かが落ちてきた」という説明にオノマトペを一つ加え、「ボトッと落ちてきた」にするだけでリアリティーが生まれ、「キャー、トカゲ!」のような文脈につながりやすくなります。いわゆる話上手な人は、オノマトペを使って会話を盛り上げることに()けています。

     オノマトペは会話だけでなく、小説のような書き言葉にも出てきます。次の例は、国語の教科書にもよく取り上げられる新美南吉の作品『ごんぎつね』の終わりの場面です。

     兵十は立ち上がって、なやにかけてある火なわじゅうを取って、火薬をつめました。そして、足音をしのばせて近よって、今、戸口を出ようとするごんを、ドンとうちました。 ごんは、ばたりとたおれました。

     兵十はかけよってきました。うちの中を見ると、土間にくりが、固めて置いてあるのが、目につきました。

     「おや。」と兵十は、びっくりしてごんに目を落しました。

     「ごん、おまいだったのか。いつも、くりをくれたのは。」

     ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。

     兵十は火なわじゅうをばたりと、取り落しました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。 

     「ドンと」「ばたりと」「ぐったりと」といったオノマトペに注目してください。こうしたオノマトペには、その場の緊張感をリアルに伝える働きがあります。オノマトペがなくても意味は通じますが、その場の状況を単に説明するだけで、臨場感は半減するでしょう。

    2016年10月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun