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    安西祐一郎の「2045年の学力」

    (6)絵日記のススメ

    • 蓑をまとい、外敵から身を守り越冬する。「寄らば大樹の陰」でも、飛翔に向けて力を蓄える日々が生き物には欠かせない(写真=秋山哲也撮影)
      蓑をまとい、外敵から身を守り越冬する。「寄らば大樹の陰」でも、飛翔に向けて力を蓄える日々が生き物には欠かせない(写真=秋山哲也撮影)

     「うちの子は文章を書くのが苦手だ」「真っ白な作文用紙の前で、ただうなっている」などという親ごさんの嘆きをよく耳にする。そういうお子さんにお勧めしたいのが、絵日記だ。特別なものではない。昔、夏休みの宿題でよく出された、あのおなじみの絵日記だ。え? あなたのお子さんの学校では、毎週末の宿題になっている? それはいいことだ。ぜひ、一緒に楽しんでほしい。

     絵日記には、子どもが生きていくうえで大切な要素が詰まっている。まず、自分の心と向き合う力だ。何らかの感動があったからこそ、書こうとしている。例えば、誰かと会っておしゃべりをした。ほんのわずかな時間でも、相手の気持ちを受け止め、心の中で何かが動いたのだ。うれしい、楽しい、悲しい、さびしい……。どんな気持ちだったのだろうか。

     書く力はおのずと読解力を含んでいる。自分の心にあるもの、発した言葉を自分の心で読み解き、あるいは聴く。実際に文字として書いたものを読み、誰が読んでくれるのかを想像し、伝わりやすい言葉を選ぶ。「書く力」は、実にさまざまな力で構成されている。

     今日何があったという出来事だけでなく、夢も書かれるかもしれない。あす何をしたいか、こんなふうになりたい――そんな思いが表現されるとしたら、その瞬間が貴重だ。

     絵を描くことも大切だ。多角的に対象をとらえて一枚の作品にまとめていく。何を描きたいのか、どんな構図にするか、色は何を使うか、どう塗り重ねていくか。頭の中でさまざまな構想が浮かんでは消え、消えては浮かぶ。そのプロセスが、子どもの心をさらに磨き上げてくれる。

     脱線するが、絵画、中でもピカソの作品が好きだ。対象を、見えるようにではなく自分の見たままに描く、という。画面全体が悲しみで覆われる「青の時代」もいいが、その後に訪れた明るい色調の「ばら色の時代」の作品、特に「アヴィニョンの娘たち」にひかれる。もともとは「アヴィニョンの売春宿」と題されたように、売春宿の女性たちがモデル。「品がない」と批判されたらしい。だが、ピカソの視線に、差別感情などの曇りは一切ないように思う。同じ地平に立つ人間同士として相対している姿勢に、「魂のこもった作品」と胸を揺さぶられるのだ。

     文章を書く、絵を描く、いずれにせよ、表現する力はこれからの時代、ますます大切になる。それなのに、外国と比べてどうも日本の子どもたち、若い人たちの表現は控えめすぎるように感じる。

     欧米やアジア諸国を訪れると、地元の大学生たちと話をする機会がある。彼らは目が合うと、例外なく「Hello!」と向こうから声をかけてくる。すかさずこちらもあいさつし、自己紹介を求めると、「I’m interested in ○○(私は○○に興味がある)」とその大学に来た理由をきちんと説明し、さらに将来の夢も語ってくれる。こちらの目をしっかりと見つめ、身振り手振りを交えて。

     元来、日本人は遠慮がちで、謙遜が美徳とされる文化の中で育っている。だが、海外に行かなくても外国人と向き合う機会が多い時代になった。学びの場では、もっと表現することが重視されるべきだと常々、考えてきた。

     絵日記が完成したら、うんと褒めてあげて欲しい。それも具体的に。どこがどう素晴らしいのか、なぜ親が感動したのか。子どもの表現力を伸ばしたいのなら、まず親から。

     そうそう、絵と文章を組み合わせて誰かに伝える力、これは昔から人工知能には難しいとされてきた能力だ。少し前に話題になった「東ロボくん」はその端的な例だ。次回はその話をしよう。

     高大接続改革で重視する「書く力」だが、現状の国立大学二次試験では、重きを置かれていない。文部科学省の集計によると、「国語」「小論文」「総合問題(複数教科を総合して学力を判断する総合的な問題)」のいずれも課さない学部募集人員は49,487人で、全体の61.6%を占めていた。大学生になるには、書き手と読み手の立場、論拠などを明確にとらえ、書き手の意図をしっかりした構造の文章で表現する力こそが大切だが、この意味で「書く力」を試している入試問題は、国公私立大学を通じてほとんどないのが現状である。
    2016年12月16日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun