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    辻井伸行の母が語る「わが子の才能を見つけた瞬間」

    エッセイスト 辻井いつ子
     世界的なアスリートや芸術家の多くは、ごく幼いうちに天職となる道の第一歩を踏み出している。だが、子供がどんな才能を持っているのかを見極めるのは難しく、それを伸ばしてあげるのも簡単ではない。親はいったい何ができるのか。世界的ピアニスト・辻井伸行さんを育てた母親のいつ子さんが、体験を基に語ってくれた。

    「よいところがある」と信じ、観察し続ける

    • ピアニスト・辻井伸行さん(撮影:堀裕二氏)
      ピアニスト・辻井伸行さん(撮影:堀裕二氏)

     私のもとには、よく、子育てに悩むお母さんからの相談が届きます。

     中でも多いのが、「子供の才能を見つけるにはどうしたらいいですか」というものです。我が子・伸行がピアニストとして皆さまの前で演奏させていただいているからだと思いますが、私は伸行に対して特別なことをしたわけでありません。

     あえて言うなら、「この子はこの子らしく育ってほしい」と願い、「何か一つでも好きになることを見つけてあげたい」という視点で、伸行を観察し続けたことでしょうか。

     伸行は生まれつき目が見えません。ですから、他の晴眼者(せいがんしゃ)(目が見える人)の子と同じような子育てはできませんでした。

     生まれて間もない頃は、どうやって育てていいか分からず、絶望しかけたこともありました。その上、小さいころの伸行は他の子と比べて発育も遅く、親としては心配ばかりしていました。負けず嫌いで泣き虫で、なかなかうまく靴がはけなくて大騒ぎをしたこともありました。周りができるのに自分ができないと30分くらいビービーと泣くものですから、学校に入ってからは「ビービー伸行」というあだ名を付けられたほどでした。

     そんな伸行に対して、私が心がけたのは、「他の子と同じではなくても、この子にはこの子のよいところ、素晴らしいところが必ずあるはず」と信じることでした。そして、「それはどこだろう。どんなことに夢中になるのだろう」と考えながら、伸行を観察し続けました。日常の暮らしの中の、伸行のわずかな反応にも、敏感に対応しようと心がけたのです。どうして、こんな反応をするのだろう、それは、なぜなんだろうということを常に気を付けたのです。

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    2017年03月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun