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教師力08

(9)子供の心「じっくり聞く」

通級指導教室用の「職員室」で、電話相談を受ける古川教諭(小部小で)

 大学院で震災後の子供たちを追跡調査した教師がいる。

 神戸市北区にある市立小部(おぶ)小学校の通級指導教室。近隣の小学校を含む通常の学級に通う発達障害や情緒障害の子供たち約40人が、週に数回、必要な支援を受けに訪れる。指導にあたる4人の教員のうちの1人が古川香世教諭(44)だ。3年前から担当している。

 子供たちと1対1で接することもあれば、指導教室の隣にある専用の“職員室”で、電話での教育相談にのることもある。じっくり、ゆっくり話を聞き、それぞれにあった対応を考える。早合点して、型にはまった判断をしないようにするためだ。「以前は、教室に行きたがらない子を、問答無用で『甘えるな〜!』って、引きずってでも、教室に連れて行くタイプだったんです」と苦笑いする。

 小学校の免許も持っていたが、長く中学校の社会科教師として過ごした。2003年度から2年間、兵庫教育大(兵庫県加東市)大学院で臨床心理学を学び、修了後に臨床心理士の資格も取得した。

 進学のきっかけは、様々な問題を抱える子供たちの心を理解したいと思ったからだ。ずっと気になっていたことがあった。阪神大震災で被災した元教え子たちのその後だ。大学院では、その追跡調査に取り組んだ。

 震災が起きた1995年当時、神戸市灘区の市立鷹匠中学校で1年生の担任だった。受け持ったクラスの教え子1人が亡くなり、残された36人の生徒も被災。避難所や引っ越し先で暮らす生徒に学級通信を届けるなど、精いっぱいのことをしたつもりだった。

 面接のため、9年ぶりに元教え子26人と再会した。すっかり成長した姿に、時には涙を流しながら、震災でつらかったことや、してほしかったことを聞き取った。「友達が死んだのに泣けなかった」「悲惨な光景にわくわくしてしまった」と自分を責めたり、「転居先でのケアがつらく、元の学校の先生と話したかった」と話したり。思いもよらなかった内面を知った。

 「みんな悲しいだろう、つらいだろう」「被災地から離れた子はひとまず安心だ」と思い込んでいた自分を振り返り、無力感に襲われた。

 衝撃的な出来事に直面すると、感情のマヒが起きるのは正常な反応であると伝え、一斉指導よりも個別指導で必要な言葉をかけていれば、もっと早く心を軽くしてあげられた――。大学院で学んだ臨床心理の知識と研究のおかげで、子供の心を知ろうとする気持ちはさらに強くなった。

 災害や事件が起きるたびに、巻き込まれた子供たちのことを思う。「それぞれに必要なモノが分かるのは一番身近にいる担任。どうかたくさん話を聞いてあげてほしい」

 現在、担当する通級指導教室の子供によく手紙を渡す。「昨日は、ふざけてばかりいたからしかっちゃったけど、理由があったんだってね。知らなくてごめんね」。お互いの気持ちを通わすために、手間は惜しまない。(大広悠子、写真も)

 臨床心理士 心理・臨床に関係のある16の学会が作った財団法人日本臨床心理士資格認定協会が、1988年から認定試験を実施している。受験資格は、原則として協会が指定する大学院の修士課程を修了した人に限られる。5年ごとに研修を受けるなどした上で、資格の更新が必要。2007年現在、1万6732人が認定を受けている。

2008年9月5日  読売新聞)
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