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(1)楽しくクイズ 理解度を把握手のひらサイズのリモコンが、大教室での授業を活気づかせる。 「さあ、クイズです」。北海道大学(札幌市)の鈴木久男准教授(47)(素粒子物理学)の合図で、水産学部の1年生約120人が教壇のスクリーンに「クリッカー」と呼ばれるリモコンを向け、一斉にスイッチを押した。 10月初めの「基礎物理学2」の授業。熱エネルギーに関する問題だ。すぐに選択肢ごとの解答数がスクリーン上の棒グラフで映し出された。正答者は3割。「難しかったですか?」と鈴木さんが問いかけると、今度は難易度を5段階で尋ねる画面が現れ、学生はまたスイッチ。半数を占めた「難しい」に、鈴木さんはうなずき、授業をやり直し始めた。 クリッカーを導入して1年半。理解度をクイズで確認しながら進める授業は、居眠りや私語に逃げ込む学生をなくした。物理嫌いの学生にも「クイズ番組みたいで楽しい」と好評だ。 ◎
鈴木さんがクリッカーを初めて目にしたのは5年前。視察で訪れた米国カリフォルニア大バークレー校でのことだった。学生約500人が真剣な表情で講義に臨んでいた。静寂が破られたのは学生がクリッカーを手にする時だけ。「うらやましい」と心底感じた。 名古屋大学の大学院を修了後、大阪大学を経て13年前に北大に着任。10分と持たずに寝たり私語をしたりする学生にうんざりしていたのだ。だが同時に、自分が授業を工夫していなかったことにも気づかされた。板書しながら、一方的に講義するだけ。かつての自分はそれで理解できたから、わからない学生の気持ちを考えたこともなかった。「わからないから私語や居眠りをするのか」。クリッカーはそれらを解決する“万能薬”に映った。 ◎
帰国後、クリッカーを使った教授法を独自に学んだ。1台1万円近くかかることもあり、当初は挙手での解答を求めたが、学生は人前で間違えて恥をかくのを恐れ、ほとんど参加しない。必要なのは、だれが何と答えたかわからない匿名性と気づき、大学と掛け合って購入にこぎ着けた。 使い始めてすぐ、有効活用にはコツが要ると知った。まず話し方。「口べた」を自認する鈴木さんは、クイズ番組に出演するタレントのみのもんたさんや島田紳助さんの話術を研究し、「正解は……」の後、言葉を少しためる工夫をし、ユーモラスに語りかけるよう努力もした。 クイズは難しすぎても易しすぎても飽きる。全問正解が出ないように設計し、難しい時には学生同士で話し合わせ、教壇で実験をして視覚で理解させる。学生自身にクイズとその解説を作らせるのも毎回の課題にした。最高正答率の学生には賞品として100円程度の文具を出すこともある。 90分授業でクイズは約20問。説明時間に限界があるため、授業は「学ぶきっかけの場」と割り切って基本的な内容に絞り、枝葉は自習に委ねている。そのためのウェブを開き、自習用の参考資料や問題、小テストを用意した。 今春からは「基礎物理学」を教える武貞正樹講師(41)も使い始めた。学生に渡すクリッカーの登録番号で、個々のつまずきが把握できるため「瞬時に授業を変え、個々の学生に対応できる」。 導入による成果は、まだ正確には測れないが、宿題の解答からは学習の形跡が見られるようになった。鈴木さん自身も変わった。かつて「研究がしたいだけ」で選んだ道だったが、今は「授業が楽しい。教育は奥深い」と笑う。 新しい小道具が、授業だけでなく、学生と教員も変える手段として根付こうとしている。(松本美奈) クリッカー 欧米の大学で急速に広がる授業用のリモコン。盤面には「0」から「9」までのスイッチが並ぶ。押すと、受信装置をつけたパソコンが自動的に集計し、スクリーンに映し出す。米国ではハーバード大やマサチューセッツ工科大でも多用され、国内では東北大や高知工科大などでも活用が始まっている。 ◇ ◇
「主体的に学習」の工夫 一方的な講義減少事実上の全入時代を迎えた大学は今、「学生に教える場」から、「自ら学ぶきっかけ作りの場」に変わろうとしている。主眼は授業改革だ。今年4月、文部科学省の大学設置基準が改正され、教育力向上の組織的な取り組みが大学に課せられた。単に学生を集めるだけでなく、きちんと育てて卒業させる責務が大学に問われている。授業改革は時代の必然の産物といえる。 大教室での一方的な講義は減りつつある。学内のウェブサイトに授業と連動した自習プログラムを載せて予習や復習を課し、学生同士で調査・議論させるなど、主体的に学ばせる工夫を凝らす大学が目立つようになった。 読売新聞の「大学の実力 教育力向上への取り組み」調査(今年5月実施)によると、学生の意欲喚起のために、何らかの取り組みを組織的に行っている大学は、回答した499大学中380校、76%にも上った。さらに、55大学は「1年以内に実施する予定」と答えている。意欲や目的意識のない学生をどうするかは、大学共通の課題となっている。 (2008年11月4日 読売新聞)
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