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特別支援教育

(1)発達障害の子 普通科で自立

 発達障害のある生徒を、積極的に受け入れる高校がある。

 机の上に広げた詩のプリントを、生徒たちが食い入るように見つめている。「今日は好きな詩を朗読し、どこが心に響いたか発表してもらいます」。女性教諭の張りのある声が教室に響き渡り、2年生の現代文の授業は始まった。

 挙手した生徒が次々と指名されていったが、順番が回ってきたのに席を立たない男子がいた。すかさず周りから、「頑張れ」と声がかかる。

 「よし!」。自らほおをたたいて気合を入れ、壇上に向かう男子。時折つっかえながらも、しっかりとした声で最後まで詩を読み上げた。

 だれの朗読が良かったか、教諭が決を採る。自分の名を呼ばれた男子が「はい!」と手を挙げて立ち上がると、教室は大きな笑いに包まれた。

 福岡県八女市の西日本短期大学付属高校。普通科の中に「発達支援クラス」を設け、学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症など、従来の特殊教育では対象とされなかった発達障害の子を、全国に先駆けて受け入れてきた。

 「前身となる情緒障害クラスを設けたのが20年前。例えば、計算はトップクラスでも証明問題が解けないなど、発達のアンバランスさが目立つ生徒が増えてきた。こうした子を支援し、自立させる教育へのニーズが高まっている」。森田修示校長(58)が、クラス設置の狙いを話す。

 発達支援クラスに在籍するのは9人。詩を読み上げた真也君(仮名)もその一人。対人関係を築くのが苦手な高機能自閉症だ。学力の遅れが目立つ教科は、発達支援クラスで少人数指導を受け、その他の教科は通常のクラスで「交流授業」に参加する。発達支援クラスには、このほか、問題が起きれば避難所となるような機能も持たせている。

 「発達障害とそうでない子を分離するのでなく、なるべく同じクラスで共に学ぶ統合教育を目指している。トラブルを一つひとつ解決していった経験が、社会に出てからの自立につながる」。発達支援クラス担当の福島文吾教諭(56)は強調する。

 同様の試みは、佐賀県でも始まろうとしている。県立太良(たら)高校(太良町)は2011年度の入試から、発達障害の子らを対象にした枠を設ける。

 県教委が07年度に行った調査で、発達障害がある生徒の約3割が全日制高校に進学していなかった。「不登校、中途退学者も含め、既存の全日制では十分に対応できていない生徒に教育機会を拡大する必要がある」と県教委学校再編・新太良高準備室の古賀信孝参事(53)。

 白水敏光校長(54)は「発達障害の子を支える指導のノウハウを確立し、県下の高校に返していきたい」と語る。

 真也君は中学時代、特別支援学級にいた。母親は特別支援学校への進学を考えたが、本人が普通高校を志望した。

 「一人前の男になりたいんだという気持ちが強い。苦手な集団生活の中に入り、交流授業に参加しているのが自信になっている」と母親は話す。

 授業中に弁当を食べ始めたり、バスの中で大声で歌ったり……。空気を読むのが不得手な真也君の行動に、当初はクラスメートも戸惑いを見せた。しかし、発達障害の特性を理解していくに従い、彼を見守っていこうという雰囲気が醸成されていった。突然大声を出した真也君を、隣の席の子が口の前に指を立て、優しく諭す姿が印象的だった。

 「真也君が変わっていく姿を見ていると、自分も頑張らなければという気持ちになる」と男子生徒。「彼と出会って、自分の視野や考え方が広がった」と女子が言葉を続けた。

 そんな真也君は今年2月、米国で開かれた知的障害者のスポーツの祭典「スペシャルオリンピックス冬季世界大会」のスピードスケートで、三つの金メダルに輝いた。「北京の北島康介、トリノの荒川静香、そしてスペシャルオリンピックスの真也! 頑張りました!!」。メダルを首から下げ、大きな拍手を浴びながら報告した真也君は、発達支援クラスから来る“お客様”ではなく、希望の星なのだ。

 発達障害の子が通常のクラスに入り、お互いが個性を認め合いながら共に成長していく。そこに、統合教育の醍醐(だいご)味がある。(保井隆之、写真も)

取り組み遅れる高校

 発達障害の子も教育ニーズに応じて支援する、特別支援教育が本格的に始まってから、3年目に入った。校内委員会の設置や特別支援教育コーディネーターの指名など、ほぼ体制整備が整った小・中学校に対して、高校など義務教育後の取り組みは大きく遅れているのが現状だ。

 文部科学省が今年3月、中学3年生の進路状況を分析した結果、高校進学者の約2・2%に発達障害等の困難があることが分かった。課程別に見ると、全日制の推計在籍率1・8%に対して、定時制14・1%、通信制は15・7%。学科別では、普通科2・0%、専門学科2・6%、総合学科3・6%となっている。

 高校で特別支援教育が進まない理由として、「選抜試験を経て入学してきたのにできないのはおかしい」とする教員の意識や、中学との連携不足からそれまでの支援が途絶えてしまうケースが多いことなどが指摘されている。

 文科省の私的諮問機関が8月にまとめた報告書では、通常の学級に在籍しながら必要に応じて別の場で指導を受ける、通級による指導の制度化などが提言されている。

2009年12月1日  読売新聞)
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