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(1)新人教師自殺 心のケアは…なぜ新人教師が希望を絶たなければいけなかったのか。 2006年5月27日、新宿区内の小学校の新任女性教諭が、自宅で自殺を図った。未遂に終わったが、声が出なくなり、うつろな目でタオルを握りしめたまま涙を落とすばかりに。31日、女性は再び死を選び、翌日に亡くなった。23歳。教壇に立てたのは、わずか2か月だった。 その年の夏、娘のかばんを整理していた母親は、中にあったノートをめくり、最後のページで手が止まった。 「無責任な私をお許し下さい。全て私の無能さが原因です。家族のみんな ごめんなさい。」 ◎
女性教諭の初任校は、1学年にクラスが一つしかなかった。新人ながら小学2年の学級担任に就いた。ベテランの教員が指導教諭に付いたが、この先生も1年の学級を受け持ち、慌ただしかった。 不安もあったが、教師になれた喜びの方が勝り、22人の教え子の名前を覚えようと、やる気に満ちていた。 一日は忙しかった。授業に学級運営、遠足などの学校行事の準備。初任者研修報告、公開授業指導案、年間授業計画作りなどの仕事も山積した。朝6時半に家を出て、帰宅時も仕事を持ち帰る毎日。ソファの上で迎える朝も少なくなかった。「年頃なのに、出勤前に鏡を見なくなった」。4月下旬頃から、姉は妹の変化を感じていた。 学校が異変に気づくのは5月22日。研修で不在だった女性の連絡帳を、たまたま、指導教諭が広げた。4月のページから、ある親による苦情でいっぱいだった。 5月25日、保護者4人が校長室に駆け込む。指導へのクレームだった。親たちは教室に行き、授業をのぞいた。亡くなる1週間前だった。 ◎
大学4年のとき、都内の小学校で、学習障害児に付き添うボランティアに励んだ。芯が強くて明るく、人前で弱音を吐くような性格ではなかった。だが、亡くなる前、親たちが授業を見に来た後、友人に「自分がふがいない」と打ち明けている。「保護者対応が気持ちの面で一番つらかったと思う」と、当時の娘の心中を父親は推し量った。 個人情報保護を理由に、連絡帳はいまだ、遺族に開示されていないが、区教委が両親に口頭で内容を説明し、「初任者である教諭が見たらショックを受けるだろう」と伝えている。「なんで子どもに漢字で名前を書かせないのか」「期待したような宿題が出ていない」などのほか、「結婚や子育てもしていないので経験が乏しいのではないか」といった教諭個人を中傷するような文言もあったという。 女性教諭の死から4か月余りが過ぎた06年10月、両親は公務災害を申請した。自殺する直前、精神科医は「適応障害の疑い、抑うつ状態」と診断していた。だが、2年後、精神疾患との因果関係が認められないとし「公務外」と認定された。再審請求をしたが、結果は出ていない。 区教委は07年4月、再発防止策をまとめた。「子どもへの指導や保護者への対応について深い悩みに陥っていた」「状況の把握が結果として十分でなく」と結論づけ、新規採用教員への心のケアや、全教員による保護者対応のサポート体制が必要であるとした。 学校に理不尽な要求を繰り返す親、いわゆる「モンスター・ペアレント」が社会の関心を集め始めるさなかでの女性教諭の死は、当時、保護者に問題があるとされた。それから3年余り。女性の両親は、原因は、むしろ学校のあり方にあると考えている。 両親は女性教諭の同僚から聞いた話として、かつて職員室にあったテーブルのことを話してくれた。教員たちは暇を見つけてはテーブルを囲み、悩みを語らっていたのだという。ところが、テーブルが撤去されたのをきっかけに和やかな空気は薄れていった。 「保護者からのクレームだけで人は死なない。教師が支え合える仕組みがないと、子どもたちにとっても悲劇となる」と話す父親の言葉は、対応に迷う現場への問いかけでもある。(大谷秀樹) 教職志望者「保護者との関係不安」文部科学省が2006年度にまとめた調査によると、「保護者や地域住民への対応が増えた」と感じている教師は、小学校で74・9%、中学校で70・6%、高校で62・4%だった。 08年度、愛知教育大教職大学院などが教職志望の学生を対象に、教師になる場合の不安について聞いたところ、「非常に不安」「不安」と答えた割合は、「保護者との関係」が計70・3%で最も多かった。 いずれも背景には、「モンスター・ペアレント」の問題がある。 学校と保護者の関係づくりを研究する小野田正利・大阪大教授(教育制度学)は「モンスター・ペアレントというレッテルを張って、人間性そのものを否定すれば、要求の裏にある親の思いも抹殺してしまう」と警告する。 保護者からの苦情が、学校問題を改善するきっかけになることもある。「向き合うべきか、距離を保つべきかを見定めるため、まずは保護者の話に耳を傾け、怒りの根源を学校全体で探る姿勢が必要だ」と小野田教授は強調する。 モンスター・ペアレント もともとは米国の一部で、家庭内虐待を受ける子どもから見た「怪物のような形相をした親」を指した単語。日本で広まった言葉とは意味が異なる。米国では、特に大学生の我が子の生活に干渉する親を「ヘリコプター・ペアレント」と呼ぶ。常に頭上を旋回し、何かあれば急降下して支援する様から、その名が付いた。 (2010年2月18日 読売新聞)
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