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    教育に関する様々な話題を随時紹介、解説します。

    カドカワが「ニコ動」で乗り出す通信制高校の成否

    eラーニング 「サボリ」と「ナマモノ」がネック

    • 早稲田大学大学院修了式(2011年)
      早稲田大学大学院修了式(2011年)

     このような便利そうに見えるeラーニングにも、ふたつほどの欠点がある。

     第1の欠点は、サボるのが簡単なこと。動画だけスタートさせておいて画面は見ずにゲームをしていても、授業を受けたことになる。もちろん学校側もそんなことは百も承知で、小テストや短いリポート、講義内容を題材にした掲示板での討議といった課題によって、本当に受講したかどうかの確認をする。それでもサボリの誘惑に負ける受講生は多いものだ。

     第2の欠点は、「ナマモノ」を扱えないことである。ナマモノとは人間や動植物のことを指す。教室での対面の討議や演習が必須の科目、あるいは動植物を使った実験・実習などのことだ。もちろん、これらの授業はスクーリングで補うことができる。私も、顕微鏡で細胞を見る必要のある細胞組織学という科目は、キャンパスに通って受講した。

     以上は、私が体験した早稲田大学eスクールの例であるが、N高でも、沖縄でのスクーリングを含む似たカリキュラムが採用されている。やはり、同じような懸念を意識してのことであろう。

     eラーニングによる通信教育は、効率よく学べるという点において、対面授業よりもはるかに優れているという確信を抱いている。それは、世界でも日本でも話題になっているMOOC(大規模公開オンライン講座)の成功例を見てもわかるだろう。

     ただし、eラーニングの授業で大きな学習の成果を得るためには、乗り越えなければならない高いハードルがある。それは「モチベーションの維持」という問題である。

    通信制高校での問題は?

     私が学んだ早稲田大学eスクールのような通信制大学は、社会人学生の受講によって成り立っている。つまり大人の学生が多いということだ。授業料を自分で払っている学生が大半で、したがって、どの学生も必死に単位を取ろうとする。単位を落としたら、その学期に費やした時間だけでなく、自分で稼ぎ自分で払った授業料まで、ドブに捨てることになるからだ。社会人学生がモチベーションを維持できる大きな理由のひとつが、ここにある。

    • 出典:文科省のHPより 2003年度以降の公立通信制高校在校生の年齢構成の推移
      出典:文科省のHPより 2003年度以降の公立通信制高校在校生の年齢構成の推移

    • 出典:文科省のHPより 2003年度以降の私立通信制高校在校生の年齢構成の推移
      出典:文科省のHPより 2003年度以降の私立通信制高校在校生の年齢構成の推移

     ただし、高校の場合は話が別になる。

     高校生の大半は、親が授業料を払ってくれるからである。しかも、通信制の生徒も高校の就学支援金を利用できるため、授業料の大半が免除されることになる。授業料のために自腹を切らずにすむ高校生のモチベーションは、社会人学生に比べると、どうしても低いものになる。

     いかにして学びのモチベーションを維持していくか? この命題は、ネット利用の通信教育だけに限らない。若年層を対象にした通信教育全体の大きな課題といえるだろう。

     若年層に向けた通信教育には、別の問題もある。それは、ネットの掲示板でも指摘されていたとおりの、引き籠もりやニート候補生の温床になりかねないという問題である。言葉を変えれば、生徒のコミュニケーション能力育成ができるかどうかの問題ということになる。

    コミュニケーション能力の育成は

     N高でも、生徒ひとりひとりに担当者がついて、こまめなサポート体制がとられる予定だという。しかし、ネット経由のサポート体制があっても、そのコミュニケーションはメールが中心になることだろう。

     ネットでのコミュニケーションは、対面する相手の顔色を見たり、周囲の雰囲気を読んだりといった非言語コミュニケーション(これもナマモノのうちだ)が、どうしても不得手になる。相手が目の前にいれば、表情を見るだけで一瞬のうちにわかることが、言葉(文章)だけでは不明瞭になり、時間もかかるもの。そのイライラが、相手を攻撃する文章につながることも珍しくない。ネットにおけるケンカやトラブルの多くが、こんなところに端を発している。

    • 出典:文科省のHPより 通信制課程の学校数・生徒数(文部科学省調べ)
      出典:文科省のHPより 通信制課程の学校数・生徒数(文部科学省調べ)

     電話でのサポートもあり得るが、1学年で1万人もの生徒のフォローを電話でしようとしたら、どれだけのサポート担当の教職員が必要になるのだろう。こんなところにも、少し不安がある。

     このようなコミュニケーション能力の育成は、やはり対面授業の方が優れている。それも短期間のスクーリングではなく、常時、生徒同士が顔を合わせ、語り合うことのできる場、すなわちコミュニティーが必要不可欠となるのではなかろうか。

     早稲田大学eスクールは、高校からストレートで入学する学生の条件を、プロスポーツ選手や芸能人、あるいは健康上の理由などで通学できない者だけに限っている。通信教育は、知識の伝授には()けているが、コミュニケーション能力を含む人間力の育成には限度があると判断しての結果であるらしい。基本的に16歳から18歳の若者が学ぶN高でも、このあたりが大きな課題となるはずだ。

    2015年10月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun