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    情報通信、講義を変える

     情報通信技術(ICT)の活用で、一部の学校の講義や授業が激変している。九州での先進事例を通して、その潜在力と課題を探った。

    ◆教科書ネット配信

    • ネットワークを使った講義を行う山田政寛准教授(右)。学生たちはパソコンやスマートフォンで受講し、大学側は集まった記録(ログ)を解析して講義の改善に生かす(16日、福岡市西区の九州大伊都キャンパスで)=中島一尊撮影
      ネットワークを使った講義を行う山田政寛准教授(右)。学生たちはパソコンやスマートフォンで受講し、大学側は集まった記録(ログ)を解析して講義の改善に生かす(16日、福岡市西区の九州大伊都キャンパスで)=中島一尊撮影

     「ネット上ではなぜ、炎上が起きるのでしょうか」。九州大学・伊都キャンパス(福岡市西区)の一室で16日、ネット上で交わされる会話を社会心理学の観点から考える講義が行われていた。

     教壇に立つのは、講義を担当する山田政寛まさのり准教授(40)。受講した学生46人の机の上には、紙の教科書は見あたらない。その代わり、大学のネットワークに無線接続された学生持参のパソコン(PC)がズラリと並び、一部の学生はスマートフォンを使っている。

     「まずはチャット(おしゃべり)機能を使って、ネット上で話し合いましょう」。山田准教授が呼びかけると、学生の私語が消え、PCをたたく音だけになった。学生たちがグループごとにネット上で討議し始めたのだ。その後、山田准教授は対面でのグループ討議に切り替え、双方の違いを考えさせた。学生からは「表情が分かる対面の方が話しやすい」といった意見が出た。

     山田准教授によると、九州大では講義の予習として、学生にネット配信した講義用スライド(教科書)をPCなどで読み、重要と考えた箇所に赤色、分からない箇所には黄色のマーカーをPC上で引くことを求めている。多数の学生が同じ箇所にマーカーを引くと、そこが教員用PCでは色濃く表示される仕組みだ。

     この機能を山田准教授も使い、多くの学生が黄色をつけた箇所をこの日の講義でも詳しく説明した。山田准教授は「この機能が導入されてから、学生がどの程度、講義内容を理解しているか事前に分かり、講義の時間配分も正確にできるようになりました」と語る。

    ◆全学でPC必携

     こうした講義を可能にしたのは、講義外でも主体的に学ぶ学生を育てようと、九州大が2013年に入学した全学部の1年生(約2700人)からPC必携をルール化したことにある。翌14年には、教科書を学生に配信する「ブックロール」など三つの学習支援システムを導入。15年には、その利用対象を全学部・大学院の学生と教員に拡大した。

     その結果、学生が大学や自宅などでPCをどう操作したかを、ネット上の記録(ログ)から解析できるようになった。たとえば、教科書の特定ページを次に進める、前ページに戻すといったログが24時間365日集まる。その数は16年度に1日平均22万件。教育分野でビッグデータ解析が可能になったのだ。

    ◆成績を事前予測

     「ログ解析で、予習してくる学生の方が好成績を収めるということをデータとして示すことができました」。こう話すのは、学習支援システムの開発に携わった島田敬士准教授(37)。講義の予習やリポート提出などネット上の記録から、各学生の最終成績を6週目の講義までに90%以上の精度で予測することも可能になったという。

     「学生たちは講義中、教員の予想以上にバラバラの行動をしていることもわかりました」と言って、島田准教授は苦笑いした(図参照)。ログは瞬時に解析できるため、講義に臨んだ教員は手元のPCで各学生が教科書のどのページを見ているかが把握でき、ついてきていない学生のために講義の速度を遅らせたり、注意喚起したりしている。

     島田准教授は「旧来型の講義もまだ多いが、めざすのはICTによる根拠に基づいた最適な講義展開です」と話している。

    端末整備に地域差

     ICTを使った授業で全国から注目されているのが、佐賀県武雄市内の小中学校だ。同市教委は15年までに計16校の全児童・生徒(計約4000人)にタブレット端末を無償配布。端末を使って自宅で予習させ、その分授業ではグループ討議などに時間を割いて、より深い学びにつなげる「反転授業」を展開している。

     「予習は授業に関する短時間の動画を見て、小テストとアンケートに答える方式。その結果を教師が確認することで、より個に寄り添った授業ができる」と、同市教委の諸岡利幸・新たな学校づくり推進室長(54)。課題は、学校ごとに反転授業の実施率にばらつきがあるほか、成績との関係がまだはっきりしないことだという。

     一方、福岡県糸島市にある同県立糸島高校(生徒数約960人)は昨年から、九州大の学習支援システムを一部の授業に活用している。担当の井上功一教諭(48)は、このシステムの可能性を評価しながらも、「本校にある端末は50台のみ。反転授業もやりたいが、端末を個人で持っていない生徒もいて、全校に広がらない」と課題を挙げた。

     文部科学省は今年度までの公立学校のPC整備計画で、1台当たりの児童・生徒数が3・6人になるよう目標を掲げているが、全国平均はまだ6・2人。県立高校の全生徒に購入させるなど、県を挙げて取り組む佐賀県(2・2人)以外の都道府県は目標を達成できていない。

    2017年10月31日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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