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    第2部・人口減<3>「本社」移転 潤う街

    「脱東京集中」へ誘致競争

    • YKKが整備した住宅の一部(富山県黒部市で)
      YKKが整備した住宅の一部(富山県黒部市で)

     日本海に面する富山県黒部市。人口約4万人のこの街で大きな変化が起きている。中心部を走る道路沿いには集合住宅が次々と建設され、一角にある保育所では子どもたちが遊ぶ。

     住宅は、東京に本社を置くファスナー大手の「YKK」が従業員ら向けに整備した。同社は2015年春から、主要製造拠点の「黒部事業所」にグループの人事や経理部門など本社機能の一部を移転。16年までに計230人と家族らが同市などに移り住んだ。集合住宅は計約100戸が完成した。

     「子育ての環境は首都圏よりも充実している」。東京の本社から、15年春に黒部に移った同社人事部の田中さゆりさん(35)は笑う。

     移転の契機は東日本大震災だ。将来の首都直下地震に備え、「機能を分散させる必要がある」と経営陣が考え実現させた。黒部の経済には恵みとなっている。

    ◆突破口

     行政や経済の機能が東京に一極集中する日本。安倍政権は集中是正を目指すとするが、総務省が1月に公表した16年の「人口移動報告」によると、東京都では転入者数が転出者数を約7万4100人上回った。約5700人増えた福岡県以外の九州・沖縄・山口各県は全て減少し、転出超過数は8県で計3万人に達した。

     こうした状況から、自治体関係者の間では、東京は各地の人材を吸い上げる「ブラックホール」とも呼ばれ、人口減の要因と指摘される。安倍政権は政府機関の移転も打ち出したが、全面移転は文化庁を京都に移す方針などにとどまり抜本解決にはほど遠い。

     こうした中、突破口として注目を集めるのが、YKKのような大企業などによる本社機能の各地への分散だ。分散が進めば、地域経済が潤い人材の流出防止にもつながる。このため、地方自治体は税制優遇などで首都圏の企業に秋波を送り、誘致競争が激化している。

    ◆有望地・福岡

    • 福岡市に本社を置いた「クレディセイフ企業情報」のオフィス。息抜き用のビリヤード台もある(左奥)=久保敏郎撮影
      福岡市に本社を置いた「クレディセイフ企業情報」のオフィス。息抜き用のビリヤード台もある(左奥)=久保敏郎撮影

     「福岡市は住みやすく、人件費なども安い。経済成長するアジアへも近い」

     3月まで福岡市東京事務所で、企業誘致を担った武藤裕嗣ひろつぐさん(45)と執行しぎょう謙一さん(41)は、年間で延べ350~400社の首都圏企業と接触し、同市への進出を呼びかけてきた。

     成長が続き、東京と同時被災の可能性も少ない福岡市は、本社機能誘致の有望地だ。実際、東日本大震災後、様々な企業が本社機能を移した。

     ノルウェーで設立された企業情報提供会社のクレディセイフ・グループも昨年、日本法人「クレディセイフ企業情報」を設立し、本社所在地を福岡市に決めた。

     日本法人の社長を任された牧野和彦さん(51)は進出に際し複数の都市を比較。雇用のしやすさやアジア進出への地の利の良さなどで最終判断した。現在までに50人超を採用しており、「福岡でも人材獲得に成功している」と語る。

     今後、福岡市にとっては、外資のアジア・太平洋本部などの誘致も課題となる。

    ◆「検討・可能性」7%

     ただ、自治体側が誘致策を並べても、移転に踏み切る企業はごくわずかだ。

     経団連が会員企業を対象に実施した15年の調査でも、回答した147社のうち本社機能の一部移転を「検討」か「将来的に可能性がある」としたのは11社(7・5%)にとどまった。

     一方、米国では、企業の本社はニューヨークや西海岸などに、ドイツでも各地に分散しており、首都集中の構造だけが世界の常識ではない。ITの進歩で、どこでも仕事ができる時代に変わってもいる。

     福岡経済同友会などが、東京で開いた一極集中是正に向けたシンポジウム。総務相や鳥取県知事を務めた片山善博氏はこう指摘した。

     「九州は福岡市の人口が増える一方、他県は若者が流出して人口が減る。連携して(本社移転の)受け皿になるという気構えが必要。特に福岡は九州全体で利益を享受する視点を持ち、考える力を発揮しなければならない」。本社機能誘致に向け、福岡の行政や経済界の本気度が問われている。(経済部 井上忠明)

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    2017年04月27日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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