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    著名人がペットとの心温まる交流を描いた読み物です。

    2匹を助け突然ママに…室伏由佳(1)

    • オレオ(左)、バニラと ◎池谷美帆撮影
      オレオ(左)、バニラと ◎池谷美帆撮影

     犬のように大きく育った猫、バニラとオレオ。6年前に出会った時、彼らはかよわく、窮地に立たされていた。

     当時の私はハンマー投げと円盤投げの選手だった。その日もいつものようにトレーニングに向かおうと、朝食を済ませて歯を磨いていた。連日のトレーニングで体の疲れが抜けない。今日の調子はどんなものか――。ぼんやり考えていたその時だ。洗面台の窓の向こうから、「助けて!!」と、鳥とも猫とも言えるような叫び声が聞こえてきた。

     「あれっ……何?」。思わず飛び出すと、大きなカラスが、手のひらに乗るぐらいの子猫を、くちばしで襲っているではないか。子猫を食べようとしているのだ。私に気付き、子猫を足でつかんで飛び去るカラス。「まずい!!」。サンダル姿で必死に追いかけた。

     カラスは数十メートル先で子猫を落とすと、再び襲い始めた。「コォラァ~!!」と我を忘れて迫る私。走りながら、色んなことが頭の中を巡った。でもハンマーを投げるのと同じで、考えるより先に私の体は動く。疲れていたはずなのに。

     駆け寄ってすくい上げた子猫は前足から血を流していた。抵抗して叫んだ時にやられたのだろう、口の中も出血していた。「早く助けなきゃ」。そっと手のひらに乗せて自宅へ戻り、タオルにくるんで近所の獣医師さんをインターネットで探した。小さな命が私に懸かっていると思うと、手足が震えた。

     病院が見つかり、車に子猫を乗せようとした時、近くで別の子猫が必死で鳴いているのに気付いた。さっきのカラスに襲われたのだろう。この子も口の中が出血していた。

     震える2匹をタオルにくるみ、近所の動物病院へ駆け込んだ。幸い大事には至らなかった。処置を終えた獣医師さんに「この子たちをどうされますか」と聞かれた。「どうしたらいいですか?」と口から出かかったが、まだ腹ばい歩きの赤ちゃんだ。ママになる決意がすぐに固まり、その日のうちに自宅に連れ帰って猫用のミルクを飲ませた。

     初めに助けた子はアメリカンショートヘアもどきの毛柄で、黒い筋がバニラビーンズに見えたのでバニラ君。もう1匹の白黒の子は、お菓子の名前からオレオ君と命名した。柄は違うが、同じサイズなので兄弟だと直感した。

     なんの心構えもなく、突然ママになった。4月で6歳になった彼ら。助けた時は200グラム前後だったが、現在バニラ9・1キロ、オレオ7・8キロ。大成長した彼らは今も、命懸けで守りたい我が子のような存在だ。

    むろふし・ゆか
     アテネ五輪女子ハンマー投げ日本代表。1977年、愛知県出身。中京大大学院博士課程修了(体育学)。円盤投げとハンマー投げの日本記録保持者。12年に競技生活から引退。現在、明治国際医療大客員教授のほか、運動指導などスポーツ関連で幅広く活動。
    2015年05月08日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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