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    モータージャーナリストの御堀直嗣さんが、話題の新車に試乗、乗り心地、性能ついて詳しくお伝えするコーナーです。

    さらに洗練、ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ(Vol.498)

    • 試乗をしたのは、新型に設けられた新グレードの、ダイハツのブーン・シルク。屋根が黒いツートーンカラー
      試乗をしたのは、新型に設けられた新グレードの、ダイハツのブーン・シルク。屋根が黒いツートーンカラー
    • ブーンの標準車は、飽きのきにくい比較的おとなしいデザイン
      ブーンの標準車は、飽きのきにくい比較的おとなしいデザイン

     ダイハツ工業が開発した小型車「ブーン」と、そのダイハツがトヨタ自動車へOEM(相手先ブランドによる生産)で提供した小型車「パッソ」。車名こそ違うが、内容は一緒である。

     新型で3世代目となり、新たに上級車種が設定された。ダイハツのブーンは「シルク」、トヨタのパッソは「モーダ」と呼ばれる。今回試乗をしたのは、ブーン・シルクだ。

     ブーン・シルクは、外観や装備などで標準のブーンと違いがあるが、走行に関わるメカニズムは同じである。

     エンジンは直列3気筒1000ccで、トランスミッションはCVT(ベルト式無段変速機)が組み合わされる。この組み合わせは前型を引き継ぐが、エンジンは燃料供給装置の変更や圧縮比を高めることなどにより効率を高め、低速トルクの向上や燃費の改善が行われている。CVTも、コンピューター制御が改良され、特に上り坂でより快適に走行できるようにしている。

    • ブーン・シルクの室内は彩りが豊か
      ブーン・シルクの室内は彩りが豊か

     ブーン・シルクと対面し、どこか見たことのある顔つきだなと思ったのは、ダイハツの軽自動車「キャスト」と雰囲気が似ているからだ。新型のブーン/パッソの開発にあたって、ダイハツは「軽自動車で培ったノウハウを余すことなく採り入れ、『小型車はいいね』と言っていただけるフルモデルチェンジに挑戦した」と述べている。経済性が重視されがちな軽自動車に、クルマとしての魅力を膨らませたのがキャストであり、それをさらに拡充したのが新型ブーン/パッソということになるだろうか。

     クルマに乗り込むと、ブーン・シルクは彩り豊かな室内空間に迎えられる。ブーンがモノトーンの室内であるのに対し、ブーン・シルクは座席に黒と赤紫色を配色し、メーター周りにもグレーや赤紫を配するなど、心が浮き立つような雰囲気に包まれる装飾が施されている。ちなみに車体色も、ブーン・シルクはツートーンから選ぶことができる。

    • 直列3気筒の1000ccエンジンは、振動・騒音が抑えられ、日常的に快適に運転できる改良が施されている
      直列3気筒の1000ccエンジンは、振動・騒音が抑えられ、日常的に快適に運転できる改良が施されている

     直列3気筒エンジンは、その特性から独特の振動や騒音を伝えやすい面があるが、ブーン・シルクはそうした振動・騒音をあまり気付かせず、快適に走った。室内はより上級な車種のように静かと言えるほどではないが、気に障るような雑音が室内に侵入することなく、小型車としてかなり快適な室内空間だ。

     座席は、前も後ろも十分な寸法があり、ゆったり座ることができる。ただ前席は、やや前下がりのような座り心地で、運転中に体がずれることがあった。後席は着座位置が高めで、床との段差があるため、足を下へおろし、腰を落ち着かせることができた。足を踏ん張って体を支えられるので、カーブを曲がったりしても余計に力むことなく、快適に乗っていられる。また、着座位置が前席よりやや高めなので、視界もよい。

    • 後席は、座席と床の段差が確保され、足を下げて腰を落ち着かせることができる
      後席は、座席と床の段差が確保され、足を下げて腰を落ち着かせることができる
    • ゆとりある寸法の前席は、座席部分がベンチシート式で、背もたれは左右個別の形となり、その間にはひじ掛けがある
      ゆとりある寸法の前席は、座席部分がベンチシート式で、背もたれは左右個別の形となり、その間にはひじ掛けがある

     1トンを切る車両重量910キロのブーン・シルクを、1000ccのエンジンは軽快に走らせた。むやみにエンジン回転を上げ過ぎることもなく、スイスイ走る。ちなみに、アクセルペダルを全開近くにして加速させてみたが、エンジンが高回転まで回っていく様子はそれほど伸びやかではないものの、その分、低い回転で存分に力を発揮し、市街地などでの日々の利用で運転しやすいエンジンに仕立てられたことがわかる。

     試乗車は、DとSのモード切り替えがあり、Sを選ぶとエンジン回転数がやや高めに維持され、またハンドル操作の手応えもより的確になり、走りの躍動感を楽しめた。一方で、ブレーキの手応えは全体的にやや曖昧で、ブレーキペダルの踏み始めにもっとしっかり減速の感覚を出せると安心感が増すだろう。

     全体的には、1000ccクラスの小型車として洗練さが大幅に向上した新型と感じた。そしてブーン・シルクの存在は、毎日乗るクルマとして使われるときにも、クルマに乗るうれしさをもたらしてくれる。

    • 後席の背もたれは左右分割式で、前方へ倒しこむと荷室容量を増やせる
      後席の背もたれは左右分割式で、前方へ倒しこむと荷室容量を増やせる

     一方、より改善を望みたいのは、ハンドル位置の調節機構だ。ハンドル高さを調節するチルト機能は備えるが、ハンドルの前後方向を調節するテレスコピック機能が備わっていない。このため、正しい運転姿勢をとる際、ペダルに合わせるとハンドルが遠くなり、ハンドルをきちんと握ろうとするとペダルが近すぎてしまう。

     これは、ブーンに限ったことではなく、軽自動車全般にも言え、正しい運転姿勢がとれないことがペダルの誤操作などにつながっている可能性も考えられる。なぜ、運転者個々の体格に合った正しい姿勢を取りにくいクルマを平気で販売し続けるのか。この点は、ダイハツに限らず、軽自動車や小型車を開発・販売する他の自動車メーカーを含め、私が長年、抱き続ける疑問だ。

    2016年06月28日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    御堀直嗣   (みほり・なおつぐ
     1955年、東京都生まれ 。玉川大工学部卒。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員等を務める。EV等にも詳しい。 スキューバダイビングや乗馬を楽しむアクティブ派でもある。
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