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    トヨタの新車試乗記です。

    知っておきたい「燃料電池って、なに?」

    燃料電池の基礎

    • 2014年12月に発売されたトヨタMIRAI
      2014年12月に発売されたトヨタMIRAI
    • 車体中央に搭載された燃料電池で発電し、モーターを駆動してMIRAIは走る
      車体中央に搭載された燃料電池で発電し、モーターを駆動してMIRAIは走る

    ●燃料電池って何?

     燃料電池とは、水素と酸素を化学反応させ、発電する装置です。英語では「Fuel Cell」と呼ばれ、それを直訳して日本語の燃料電池となりました。

     車載の12V鉛バッテリーのように、電気をためる発想とは異なります。とはいえ、実は鉛バッテリーも電気をそのままためているわけではありません。電気というエネルギーは、石油やガスのように、そのままためておけないからです。

    ●電気は、どうやって蓄えるのか?

     エンジン車に搭載されている鉛バッテリーも、電極の化学反応で発電していると言える仕組みになっています。

     鉛バッテリーは、マイナス電極の鉛が、電解液の希硫酸との反応によって酸化鉛に化学変化する際、電子がプラス極へ移動することにより電流を生じます(放電)。

     充電の際は、電気をもらうことでマイナス極に電子が来て、酸化鉛と化学反応することによってマイナス極が鉛に戻り、その後、再び希硫酸による化学反応で電子を放出できる状態に戻ります。

     化学式にすると、次のようになります。

    <マイナス極・放電>
     Pb(鉛)+SO4(希硫酸/電解液)→PbSO4(硫酸鉛)+2e(電子)

    <マイナス極・充電>
     PbSO4(硫酸鉛)+2e(電子)→Pb(鉛)+SO4(希硫酸/電解液)

     この化学反応により、外からは、あたかも鉛バッテリーに電気がためられたように見えるのです。

     プラスとマイナス一組の電極を「セル」と言います。

     鉛バッテリーの場合、1セルで2V(ボルト)の発電ができます。車載される鉛バッテリーは、6セルの構成なので、12Vバッテリーとなるのです。

    ●燃料電池は、どのように発電するのか?

     燃料電池車に搭載されている燃料電池は「固体高分子形」と呼ばれる方式です。

     調理で使うラップのように薄い電解質の膜が、固体高分子膜で、これを電極でサンドイッチしたものが、一組の燃料電池になります。この一組を、最小単位のセルと言います。

     固体高分子膜をサンドイッチしている電極には、表面に薄く白金が塗られています。この白金が発電を促します。

     発電をするために、燃料電池のセルには、水素と酸素を供給する必要があります。

     鉛バッテリーのときと同じように、マイナス極側に水素が送り込まれると白金に促されて水素が電子を放出します。この電子の移動により、発電が行われます。

     電子を放出したあとの水素(正確には水素イオン)は、固体高分子膜を通り抜けプラス側へ移動します。ここで、酸素と結合し、水になります。

     水素が酸素と結合し、水になる化学反応によって電子の移動が起こり、発電する。それが燃料電池です。

     燃料電池は、1セルで0.7Vの発電をします。もし燃料電池で12Vを得るとしたら、17セル必要になる計算です。

    ●水の電気分解の逆作用

     中学時代、科学の実験で、水の電気分解を習ったのではないでしょうか。

     水の化学式はH2Oですが、水に電気を流すとそれぞれの元素に分解されて、水素と酸素のガスになる実験です。

     これと逆に、水素と酸素を結合させれば、電気を生じ、そして水になるという化学反応を応用したのが燃料電池という発電方法です。

    燃料電池の歴史

    ●燃料電池は誰が発明したか?

     イギリスの物理学者であるウィリアム・グローブ卿が、1839年に、水素と酸素を結び付けて水を作る過程で、電気を取り出すことに成功し、これが燃料電池の原理の最初とされています。

     グローブ卿は、イギリスの裁判官としてナイトの称号を受けていましたが、病気により法廷での仕事を中断しているとき、10年ほど電池の研究に取り組み、燃料電池の原理を発見したと伝えられています。

    ●宇宙開発で実用化された

    • 1996年に、大阪で開催された第13回国際電気自動車シンポジウムで走行を披露したトヨタの燃料電池車
      1996年に、大阪で開催された第13回国際電気自動車シンポジウムで走行を披露したトヨタの燃料電池車

     アメリカの有人宇宙飛行ジェミニ計画を行う際に選んだ発電方法が、燃料電池でした。原子力や太陽光などほかの発電方法に比べ、小型で安全という理由で選ばれたそうです。

     有人宇宙飛行を行ったジェミニ5号で1965年に採用され、従来のバッテリーに比べ、宇宙滞在日数を約2倍に延長することができました。その後、改良が進められ、燃料電池で発電することにより生じる水は、宇宙飛行士たちの飲料水として利用されるようになったとも言われています。

     燃料電池はその後のアポロ計画やスペースシャトルでも使われてきました。

    ●燃料電池のクルマは、いつ登場したのか?

     燃料電池車というクルマが世の中に公開されたのは、1994年のダイムラー・ベンツ社(現在のダイムラー社)の「NECARI」が最初でした。商用バンを基にした、NECARIの荷室は、装置でいっぱいであり、まだ乗用車には適用できない大きさでした。

     日本では、トヨタが1992年から燃料電池の開発をはじめ、96年の第13回国際電気自動車シンポジウム(EVS13)で、RAV4を基にした水素吸蔵合金で水素を運搬する方法の燃料電池車を製作し、大阪・御堂筋でデモンストレーション走行をしました。

     1990年代から世界の主要な自動車メーカーで燃料電池車の開発が行われ、中でもトヨタは、2014年12月に世界初の量産市販燃料電池車として、MIRAIを発売しました。

    燃料電池の特性

    • 車体の床下に燃料電池を搭載し、その後方に水素タンクがある
      車体の床下に燃料電池を搭載し、その後方に水素タンクがある

    ●燃料電池車と電気自動車の違いとは?

     燃料電池車と電気自動車は、構造上、共通部分と異なる部分とがあります。

     まず、共通部分は、電気を使ってモーターで駆動するところです。したがって、エンジン車のような排ガスを出さず、これによりどちらもゼロエミッション車と言われます。

     異なる部分は、電気を生み出すところです。燃料電池は水素タンクを搭載し、その水素と空気中の酸素を使い、燃料電池で発電します。

     一方、電気自動車は、車載したバッテリーに充電した電気を使い、モーターを駆動します。

     このため、走行するためのエネルギーは、燃料電池車では水素ガスの充填(じゅうてん)をスタンドで行い、電気自動車は家庭などで充電をします。また、移動途中では、急速充電スタンドでの充電も行えます。

    • カーボンファイバーを使った軽くて丈夫なタンクに700気圧の水素ガスが充填される
      カーボンファイバーを使った軽くて丈夫なタンクに700気圧の水素ガスが充填される
    • 厳重に漏れを予防した装置で水素は充填される
      厳重に漏れを予防した装置で水素は充填される

    ●水素は、安全なのか?

    • 燃料電池の開発から22年の歳月を経て、市販に移されたトヨタのMIRAI
      燃料電池の開発から22年の歳月を経て、市販に移されたトヨタのMIRAI

     水素は、もっとも軽く小さい元素です。

     空気中の水素の割合が4%から75%の範囲だと、火がつく可能性があります。では、ガソリンはどうかというと、空気中に7%以上あると燃えやすくなります。

     どちらも、燃えやすい燃料であることに違いはありません。ただし、水素は、もっとも軽くて小さな元素だと紹介したように、空気中では軽いことによって拡散しやすく、たまりにくい性質があります。拡散すれば濃度は薄まり、燃えにくくなります。

     一方、ガソリンは、水素に比べ空気中に広がる速度が遅いため、()まりやすく、したがって漏れれば火がつきやすい危険な状態になります。

     水素は軽くて拡散しやすいという性質を十分に理解し、管理することで、安全に使える燃料になっていくでしょう。

    <モータージャーナリスト:御堀直嗣>

    2016年03月07日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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