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    パリ同時テロ、それでも夢はあきらめない

    • 夏休み期間中も大学に来て車の整備をする学生たち
      夏休み期間中も大学に来て車の整備をする学生たち

     ◇モンテカルロ断念、NZと豪州のレース参戦

     昨年11月に起きたパリ同時テロで思わぬ影響を受けた人たちがいる。授業で海外ヒストリックラリー参戦を目指してきた東京大学とホンダ学園「ホンダ・テクニカル・カレッジ関東」の学生たちだ。世界の名車が集う「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」。モナコやフランスなどを舞台に開かれるこの大会への参加を夢見て、半年以上かけて車を修理・改造してきた。フランスの非常事態宣言を受けてモンテカルロ参戦を断念し、一時期、失意の底に沈んでいた学生たちは、再び立ち上がった。やはり自分の力を海外で試したい、と。新たな目標は3月にニュージーランドで開かれるタルガ・バンビーナ、4月に豪州で開かれるタルガ・タスマニアである。

    • 車の構造を学ぶ東大生たち(ネッツトヨタ富山で)
      車の構造を学ぶ東大生たち(ネッツトヨタ富山で)

     ◇車の整備、資金集めは学生の手で

     今年度で6回目となった海外ヒストリックラリー参戦プロジェクトは、東大と東大大学院の授業として行われている。今回から自動車の整備士を養成するホンダ学園の学生も加わった。ホンダ学園の学生も授業の一環で参加している。総勢約30人で「TeamMUSASHI」を結成した。

     レース中の車の運転はプロのドライバーにまかせるが、車の修理やラリー車への改造、資金集め、大会エントリー、レースのサポートは学生たちが行う。前回からラリードライバーの篠塚建次郎さんもドライバーとして参加している。1997年にダカールラリー(通称・パリダカ)に日本人初の総合優勝を果たした歴戦の雄だ。

    • 夜中までかかって車を整備する東大生たち
      夜中までかかって車を整備する東大生たち

     ◇同時テロ発生「ちょっとやばいかな」

     昨年11月14日。日本では朝から、パリで発生した同時テロのニュース一色になった。犠牲者の数は刻一刻と膨らみ、多くの人がテレビやインターネットにくぎ付けとなった。

     「ちょっとやばいかなとは内心思っていましたけど、自分たちが行くランスとか、そういった地区に直接、被害があるとは思えないので、もしかしたらこのまま行けるかなと思いつつ、船積みの準備をしていました」。東大大学院の森山帆峰(ほだか)さん(人文社会系研究科修士2年)は振り返る。テロの恐ろしさは感じても、これが自分たちの身に降りかかってくると想像したメンバーは、多くはなかった。

     ラリー・モンテカルロ・ヒストリックが開催されるのは2016年1月27日から2月3日にかけて。レースに出場する5台の車を横浜港で船積みする日は11月20日に迫っていた。一度に5台もの車を出場させるのは初めてで、車の整備、通関に必要な書類の準備、物品の調達、箱詰めなど、やらなければならないことが目の前に次々と現れた。

     ◇「行動は止められない」リーダーの苦悩

     出場車両の中の1台、オレンジ色のシビックは、11月に入ってからミッションが5速に入ったまま抜けないトラブルに見舞われていた。

     この車を担当する東大の川田桃子さん(農学部3年)は、自分たちで調べても、ホンダ学園の学生に問い合わせても、車のチューニングをする業者に見てもらっても原因がつかめず、頭を抱えていた。「レポートやバイトがその時期に入っていて、私ができないところをほかの人に頼んだり、引き継いだりして大変でした」

     テロが起きた時は「初めは自分たちが行くところだという認識は全くなく、何か外の話みたいでした。ただ、時間がたてばたつほど、大変なんじゃないかと思うようになりました」。目の前の仕事に追われながら、テロの影響も気になり始めていた。

    • 船積みの準備をする東大生たち(2015年11月19日撮影)
      船積みの準備をする東大生たち(2015年11月19日撮影)

     東大の学生リーダー、春日(あきら)さん(大学院工学系研究科修士1年)の気持ちは揺れた。「船積みに向けた作業をいったん中止してしまったら、『やはり行く』となった時にもう間に合わない。メンバーに不安は当然あったと思うんですけど、口に出してしまっては行動が止まると思った」。船積みの作業を進める一方で、プロジェクトを指導する東大大学院工学系研究科の草加浩平特任教授らと連絡を取り合い、対応を協議した。

     また、主催者にも直接電話を入れ、開催の見通しを聞いた。その時点での回答は「現状ではやる。ただ今後、何が起きるか全く分からない」だった。

     ◇篠塚建次郎さんの助言

     同時テロの報を聞いた草加特任教授は外務省、日本企業がどう対応するか、急いで情報収集を始めた。「15年1月にシャルリー・エブドを狙ったテロが起きているじゃないですか。同時テロ発生直後は『またか』という感じでしたが、オランド大統領がいたサッカー場も狙われた。これはまずい、今までのテロとはちょっと違うと思いました」

     フランスへの渡航自粛が相次ぐ中、本田技研がフランスへの出入国禁止を決めた。これに伴い、ホンダ学園の学生たちもフランスへの渡航ができなくなった。東大側には11月18日ごろ、決定が伝えられた。

     東大生だけでも行くべきか、草加特任教授は悩んだ。かつてパリを拠点としていた篠塚さんにもアドバイスを求めた。ダカールラリーは08年に通過国の治安悪化で中止に追い込まれた。篠塚さんは、治安悪化で非常事態宣言が出ると保険がきかなくなる上、国境通過が非常に難しくなり、競技どころではなくなることを話してくれた。

     フランス議会では非常事態宣言を3か月延長する動きが出ていた。採決は船積みが行われる日と同じ20日。大会本番までに状況が改善される可能性はあるが、一度車を欧州に送ってしまうと、そこから転戦するのは不可能。草加特任教授が出した結論は「船積みに間に合う時間までに法案が否決されたら行く、それ以外なら行かない」だった。

    2016年02月24日 12時52分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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