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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? 笑える本と泣ける本

     いい本は読み手の喜怒哀楽、つまり感情を大きく揺さぶるもの。その代表格である「笑える本」と「泣ける本」の対決となった今回の「どっち派?」。腹を抱えて大爆笑しても、大粒の涙でほおらしても、気分すっきり、心晴れやかな読後感に浸れそうです。

    笑える本…人気作家が軽妙、痛快に

    • 浅田次郎さん(上)、有川浩さん(右)、南伸坊さん
      浅田次郎さん(上)、有川浩さん(右)、南伸坊さん

     「私が著者に抱いていた幻は木端微塵みじんに砕け散った。こんなに面白い人だったのね!」。東野圭吾『あの頃ぼくらはアホでした』(集英社文庫)を推薦するのは、千葉市、浜田晶代さん(57)。ミステリーの巨匠が、ワルの巣窟で過ごした中学時代から大学時代の合コンの失敗談まで赤裸々に振り返ります。シリアスさと同時に軽妙な笑いも書けるのが、読者を引きつける条件の一つなのでしょう。「笑える本」の投書では、当代の人気作家の名が目立ちました。

     泣かせるイメージの強い浅田次郎さんもその一人。任侠にんきょう団体専用のホテルが舞台の『プリズンホテル』(同)について、新潟市、早川和雄さん(61)は、「物語に入る前からドアは鉄板、窓は防弾ガラス使用などと記されたホテルの平面図に大笑い」。おじさんたちが悪人を成敗する有川浩『三匹のおっさん』(新潮文庫など)については、愛知県刈谷市、竹内祐司さん(54)が「時代劇のように勧善懲悪でお約束事のパターンが痛快な笑いにつながっている」。

     考えてみれば、昔の文豪も笑いと無縁ではない。茨城県笠間市、伊藤靖則さん(56)は犬嫌いの悲哀をユーモラスに描く太宰治の短編「畜犬談」を高校の国語の教科書で読み、「暗い作家という印象が覆り、太宰にどんどんはまっていった」そうです。

     エッセーからは南伸坊さんが、自分の顔をキャンバスにして著名人に変装する『本人伝説』(文春文庫)。「体を張って笑わせてくれ面白すぎ」と長崎県波佐見町、松尾美保子さん(67)が一押しです。

     しかし、笑える本と泣ける本のどちらがいいか決めるのは本当に難しい。高松市、仁田裕也さん(58)の「結局、本の感動を涙で表現したいか、笑いで表現したいかに尽きる」との言葉に納得です。

    「笑う」の本

     志水彰、角辻豊、中村真『人はなぜ笑うのか』(ブルーバックス)は、生物の進化や新生児の成長とともに笑いが獲得されていく過程や笑いのメカニズムを科学的に読み解く。仏の哲学者ベルクソンには、『笑い』(ちくま学芸文庫)という名著がある。笑いを社会との関連から考察、生命が本来持つべき柔軟性を失ったこわりが笑いの対象になるという。

    泣ける本…心打つ親子愛、母の強さ

    • 重松清さん(上)、藤原ていさん(右)、東直子さん
      重松清さん(上)、藤原ていさん(右)、東直子さん

     普通の家族の情景を描いているのに、つい泣かされてしまう。そんな小説の描き手として推薦が多かったのが重松清さんでした。大阪市の速水峰子さん(63)は、妻を失ったヤスさんが男手一つで息子のアキラを育て上げる『とんび』(角川文庫)に、「一生懸命で不器用なヤスさんの姿にうるうるした。岡山出身の私には、やさしい方言もたまらない」。埼玉県川口市、丸山勝也さん(76)は、死にゆく妻を見送る父子を描く『その日のまえに』(文春文庫)について、「日常の中にある幸せの意味を見つめる短編集。あふれ出る涙を抑えきれなかった」。

     さいたま市の松田清臣さん(16)が、かつて高校入試の模擬試験で出会い、「泣けてテストにならなかった」というのが、東直子さんの短編集『とりつくしま』(ちくま文庫)の巻頭の1編。40代で死んだ母親が、中学生の息子の最後の野球の試合をロージンにとりついて見守ります。松田さんは、読後「いろんな事が分かったような気持ち」になりお母さんに薦めたら大泣きで、言葉をかけるタイミングを逃してしまったそう。実はお母さん、息子がこの文章を読んで感動してくれたことがうれしくて泣いたのだとか。

     ノンフィクションでは、終戦後、大陸から愛児3人を連れて引き揚げた壮絶な体験をつづる、藤原てい『流れる星は生きている』(中公文庫)に青森市、長牛由美さん(42)から「どんな苦しさにも負けない母としての強さに心打たれた」と推薦がありました。

     最後は「泣ける本」派の意見を代表して、東京都、武田真桃花さん(14)からの発言を。「泣ける本は読み終わった後、心に響いて忘れられなくなる。笑える本も好きだけれど、心に残る泣ける本が私は好き」

    「泣く」の本

     本や映像で意識的に泣くことでストレスを解消しようという「涙活」が広がっている。提唱者による寺井広樹『天国ポスト』(トランスワールドジャパン)は会えなくなってしまった大切な人へと投函とうかんされた手紙から73通を紹介。人気エッセーシリーズの1冊、酒井順子『泣いたの、バレた?』(講談社文庫)では、今時の女の涙、男の涙について鋭い考察が。

    店主のとっておき紹介

     皆さんの熱心な投書に感謝して、よみうり堂店主のとっておきの本を紹介します。「笑える本」は東野圭吾『超・殺人事件』(新潮文庫)。本の洪水で悲鳴を上げる書評家の元にボタン一つで書評を書いてくれる夢の機械が現れる話など、出版界のあれやこれやをシニカルな視点でおちょくる、黒い笑いが快感です。

     一方、涙なしに読めないのが、池永陽『コンビニ・ララバイ』(集英社文庫)。妻子を失った男が経営するコンビニに、やはり心に傷を負った人々が集まってくる。ままならない人生を不器用に生きる男女の哀感が切ない、浪花節的短編集です。(佐)

    2017年05月02日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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