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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? 直木賞と本屋大賞

     今回は、157回目を迎える伝統の文学賞「直木賞」と新興ながら大きな影響力を持つライバル「本屋大賞」の対決。作家選考と書店員の投票。性格の違う両賞どちらの受賞作が、「よみうり堂」読者の心を捕らえたのか。初の文学賞バトル、いよいよ開幕です。

    直木賞…一流作家が選ぶ信頼感

    • 1980年7月、直木賞に決まり記者会見する向田邦子
      1980年7月、直木賞に決まり記者会見する向田邦子

     直木賞派は、一流作家が選んだ信頼感や安定感を理由に挙げる方が目立ちました。東京都東大和市、松原達雄さん(83)は、戦国時代の海賊を描く1987年受賞の白石一郎『海狼伝』(文春文庫)が賞に注目するきっかけ。「歴史を海から見つめ直す雄大な夢とロマンにのめりこみ、全受賞作を購読するようになった」

     熊本県玉名市、川原夢人さん(30)は、野坂昭如あきゆき火垂ほたるの墓」、景山民夫『遠い海から来たCOOクー』(角川文庫)のアニメを見て原作へ。「子供の頃、活字嫌いだった私の本に対する考え方を変えた2作は、今も大切な作品です」

     ヒロインたちへの共感が寄せられたのは、97年受賞の篠田節子『女たちのジハード』(集英社文庫)。青森市、長牛由実さん(42)は、「仕事や恋愛に悩む女性たちの姿はまさに当時の私。自分の道を見つける彼女たちにエールをもらい、頑張ろうと奮い立って大学院に進学した」。

     93年受賞の高村薫『マークスの山』(新潮文庫)は推薦多数。受賞作一覧を調べた鳥取県米子市、吉野三也さん(50)は、「エンターテインメントとしての緊張感と底に流れる人間へのまなざしが素晴らしい」と本作に1票です。

     向田邦子『思い出トランプ』(同)に収録された80年の受賞3短編にも熱烈な支持が。中年夫婦の微妙な関係を描く「かわうそ」は「一見ありふれた人間模様から、人生の陰の部分を切り取る作者の手腕は見事」と仙台市、小田島和佳子さん(35)。脚本家として著名な作者は受賞の翌年、これからという時に飛行機事故に遭い51歳で亡くなっています。新潟県南魚沼市、水沢和子さん(61)の「ご存命なら、さらにどんないい小説を書かれたことか」との思いは、多くの直木賞ファンに共通した思いでしょう。

     直木賞

     1935年、文芸春秋の菊池寛によって芥川賞とともに創設。正式名・直木三十五賞。毎年1月と7月に選考が行われ、今年7月で157回を迎える。芥川賞が文芸誌に掲載された純文学作品を対象としているのに対して、近年の直木賞は、エンターテインメント系小説の単行本を主な対象とし、10人前後のベテラン作家による選考委員の合議で受賞作を選んでいる。

    本屋大賞…身近な書店員に親しみ

    • 2012年4月、本屋大賞を受賞し書店員に囲まれる三浦しをんさん(手前左)
      2012年4月、本屋大賞を受賞し書店員に囲まれる三浦しをんさん(手前左)

     「書店員という何より本が好きな人たちが選ぶ賞だから、面白いに違いない」と第1回大賞の小川洋子『博士の愛した数式』(新潮文庫)などを推薦してきたのは、北海道富良野市、増田篤子さん(65)。本屋大賞派は、身近な書店員への親しみを支持の理由に挙げてきています。

     中でも最多の推薦があったのが三浦しをん『舟を編む』(光文社文庫)。兵庫県猪名川町いながわちょう、西条武俊さん(72)は、作中、辞書編集のプロジェクトが始まる時の<辞書は、言葉の海を渡る舟だ>との台詞せりふがお気に入り。「私も製薬のプロジェクトに携わったことがあり、チームの意気込みに共感した」とのことです。

     ピアノの調律師の成長を描く宮下奈都なつ『羊と鋼の森』(文芸春秋)は「日々のコツコツしたことの積み重ねの大切さが伝わる場面に、物作りの仕事に携わる自分も心打たれる」と愛知県刈谷市、竹内祐司さん(54)が一押しです。

     今年、『蜜蜂と遠雷』で直木賞とのダブル受賞となった恩田陸さんは、2005年にも『夜のピクニック』(新潮文庫)で受賞しています。神奈川県小田原市、尾崎葉子さん(44)は、「長男にこの本の読書を勧めたのがきっかけで2人で本屋大賞作品を片っ端から読み始め、今では私の母を含め三世代で楽しんでいます」。現在中3の彼のお気に入りは、和田りょう『村上海賊の娘』(同)だとか。

     戦後の焼け跡から立ち上がった経営者がモデルの百田尚樹『海賊とよばれた男』(講談社文庫)については、東京都町田市、山下みどりさん(60)が、「自分ではスルーしてしまうタイトルですが、受賞をきっかけに購入し、主人公の下で働きたいと思った」。そういった意味でもこの賞は、読書好きを増やす効果を上げているようです。

     本屋大賞

     正式名称は「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 本屋大賞」。出版業界に新しい流れを作ろうと2004年4月から毎年、発表されている。日本の小説の中から書店員による投票で選ぶのが特色で、1次投票で候補10作に絞り、2次投票の得票数がランキング形式で公表される。2012年からは翻訳小説部門も設けられた。

    傾向違っても高レベル

     今回の投書では両賞とも素晴らしいという「どっちつかず派」や、恩田陸さんのダブル受賞への祝福も多数でした。

     両賞それぞれに「私のベスト10」を送ってこられたのが、東京都町田市、戸田昭子さん(74)。直木賞だけでも、1966年の立原正秋『白い罌粟けし』あたりから約30冊を読破。80年代後半から2010年頃までが直木賞に熱心で、この数年は「年齢に関係なく楽しめる本屋大賞を好んでいる」そうです。

     傾向は違っても両賞とも受賞作のレベルは相当高いはず。あなたも受賞作を指標に読書にいそしんで、マイベスト10を作ってみては?(佐)

    2017年07月05日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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