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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? 川端康成と三島由紀夫

     じっくり読書ができる夏休みシーズンに、改めて日本文学に触れてほしいとの思いで企画した川端康成と三島由紀夫の対決に、多くの投稿が届きました。生と死、美のはざまでつづられた数々の名作は、私たちを今もひきつけます。

    川端康成…情景描写の美しさ

     「川端の作品を読むたび、『天才だ!』と思わずにはいられません。文章のたくみさ、表現の美しさ、繊細さ……」

     宮崎市の上原宏美さん(49)の言葉です。その一押しは、ある娘の腕をめぐる出来事を描いた「片腕」(新潮文庫『眠れる美女』収録)。「エロスが極まっています」

     埼玉県川口市の丸山勝也さん(77)は、『雪国』(新潮文庫)の「冒頭の一文が頭から離れない」と話します。

     <国境の長いトンネルを抜けると雪国であった>

     川端を愛する人たちは、彼の文学が紡ぎ出す凄絶せいぜつな美の世界に憧れがあるようです。

     「余情の深みや美しい日本の四季の情景描写にうっとりする。感受性をくすぐられながら読み進めると、突如、緊張感が迫ってくる」。こんな投稿を寄せた新潟県津南町の樋口理絵さん(38)は、「〈1〉『山の音』、〈2〉『雪国』、〈3〉『古都』」と好きな作品の順位を挙げてくれました。

     横浜市の茂木房夫さん(60)は、青春の清潔な愛の形を刻みつけた『伊豆の踊子』(同)に一票。「私小説のような書き方でありながら、私小説を超えた世界が作られている」

     『てのひらの小説』(同)は、作家の技を凝縮した掌編122編を収めます。奈良市の上山裕子さん(33)は、「一編ずつが短くするりと読めて、なおかつ感情が揺さぶられます」。中でも好きなのは、爽やかな気持ちになれる「雨傘」です。

     最後に、『みずうみ』(同)には、埼玉県富士見市の相原弘さん(84)から丁寧なはがきをいただきました。「読んだとき、世の人は作家の内面の世界を知って称賛を送っているのか……と衝撃を受けました。でも読み進めると、他の追随を許さない独自の展開が待っておりました。氏は、私には魔性を秘めた詩人です」

     かわばた・やすなり 1899年、大阪生まれ。幼いときに両親を亡くして孤児となり、姉と別れ祖父に引き取られた。東京帝大在学中に菊池寛と知り合い、第6次「新思潮」を発刊。新感覚派の旗手となった。1968年に「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現」したとしてノーベル文学賞を受賞。72年にガス自殺。

    三島由紀夫…率直な感情の発露

     北海道旭川市の斎藤明美さん(68)は、「多感で生意気だった高校生の時、三島由紀夫に出会った」と振り返ります。お薦めの一冊は、『仮面の告白』(新潮文庫)。「産湯を使ったとき、たらいの縁を見たという冒頭の挿話から心を奪われた。ここまで書くかという率直な感情の発露。あっという間に読み終えました」

     実際の放火事件に題材を取った『金閣寺』(同)を挙げる静岡県磐田市の宮崎健一さん(67)は、「この主人公はモデルの放火犯ではなく、三島その人です」と断言します。「作中人物に仮託し、『金閣寺=絶対の美』への愛憎が、絢爛けんらんかつ稠密ちゅうみつに描かれている」

     「私が高校3年の秋、三島由紀夫は自衛隊に決起を促し、自殺した」。神奈川県横須賀市の佐藤良美さん(64)の手紙です。今回、三島はある世代にとって特別な作家であることを改めて教えられました。

     その佐藤さんは、輪廻りんね転生を主題とした作家のライフワーク『春の雪』(同)に始まる「豊饒ほうじょうの海」4部作を、社会人になってから読みました。「最後の一文には『ああ』としか言葉が出ませんでした」

     一方、多様な作品があるのもこの作家の魅力です。「俗っぽい感覚が好き」と広島市の井ノ上康浩さん(54)が語るのは、戦後間もなくの「光クラブ事件」をもとにした『青の時代』(同)。大津市の松田翔さん(29)は、「役人生活を冷徹に見つめている」と「訃音」(新潮文庫『鍵のかかる部屋』収録)を薦めます。

     『三島由紀夫レター教室』(ちくま文庫)をフォローしているインスタグラムで知り、『不道徳教育講座』(角川文庫)も読んだのは、東京都練馬区の黒島緑さん(21)。「言葉の毒について」など、刺激的な言葉が並んでいます。「三島は現代女子にも受ける」と、心強い一言。

     みしま・ゆきお 1925年、東京生まれ。祖母に溺愛されて育つ。東大法学部卒業後、勤務した大蔵省を9か月で退職し、専業作家となった。ノーベル文学賞では、川端とともに受賞を争った。70年、『豊饒(ほうじょう)の海』第4巻「天人五衰」の最終回の原稿を書き上げ、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。

    評論にも魅力的な表現

     日本を代表する2人の作家は、文学について語った評論も魅力的だ。川端康成『文芸時評』は、若き日の著者が同時代に発表された作品を論じた文章を収める。<真実に触れようとする肌を文体が包んでいる><生活を見ている眼の誠実の手柄である>。小説そのものより、詩情の漂う言葉が並ぶ。

     一方、三島の評論として有名なのは「太陽と鉄」。<男はなぜ、壮烈な死によってだけ美と関わるのであろうか>。後年の肉体と行動に傾斜し、その先の劇的な死さえ予感させる作家の思考の跡が、躍動感のみなぎる文章で刻まれている。(待)

    2017年08月02日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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