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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? ハードボイルドとロマンス

     女性が好みそうな「ロマンス」と男性読者が多そうな「ハードボイルド」というよみうり堂店主の事前予想は見事に裏切られ、ともに性別を問わぬ支持が寄せられた今回の対決。甘美な恋にときめくか、タフな生き方にしびれるか、あなたはどっち?

    ロマンス…切ない恋に胸ときめく

    • ↑ 1897年に米で出版された『シンデレラ』(川田雅直さん蔵)
      ↑ 1897年に米で出版された『シンデレラ』(川田雅直さん蔵)

     古今東西、多岐にわたる推薦の中で、「シンデレラはロマンス界の星」という兵庫県三田市、藤原栄美子さん(29)の言葉に膝を打ちました。オススメは著名な童話を魅惑的な言葉で語り直したエリナー・ファージョン『ガラスの靴』(新潮文庫)。靴が合い、ヒロインが王子にささやく「わたしの手に――キスしてくださる?」というセリフに、胸きゅんです。

     翻訳ものに多い、いわゆる「ロマンス小説」については、「一度手にしたら、昔少女マンガ誌の『りぼん』などで感じた切ないときめきを感じる世界にはまった。けなげなヒロインが必ず幸せになる安心感もいい」と大阪府富田林市、秋田久美子さん(54)。メアリ・バログ作品(原書房など)などがお気に入りです。

     一般の恋愛小説ではタイが舞台の辻仁成『サヨナライツカ』(幻冬舎文庫)を兵庫県尼崎市、吉田浩子さん(47)が推します。「自由奔放に見えていちずに愛し抜くヒロインに夢中に。巻頭の詩の『愛しても決して愛しすぎてはならない』とのフレーズを読むと胸が締め付けられるよう」

     高齢者からの投稿も印象に残りました。「男性ですがロマンス派」という広島市の内さとしさん(73)はレマルク『凱旋門』を若いころ読んで、ナチスの迫害を逃れパリへ逃げた外科医と女性歌手の鮮烈な恋に、青春の胸を焦がしたそう。入手が難しい本ですが、「今、読み返して純愛とは、この二人の愛のようなものだと、今の若い人に教えたい」。広島県呉市、水野美那子さん(84)は、伊藤左千夫『野菊の墓』(新潮文庫)の「『民さんは野菊のような人だ』と恋心をほのめかす場面などを読み返すと10代に戻り恋心を抱いているような気持ちになる」。ロマンスの本当の効用は若返りかもしれませんね。

     ロマンス 元はロマンス語(ラテン語の口語から派生した諸言語)で書かれた伝奇物語を意味した。ルネサンス時代に流行した創作歌曲や18、19世紀の仏独の叙情的歌曲などにも使われた。現在は、恋愛物語一般を意味する場合が多い。ハーレクインなど女性向けの娯楽性の高い翻訳「ロマンス小説」も根強い人気がある。

    ハードボイルド…孤高の生き方に惚れる

    • ↑ ハメットの名作「マルタの鷹」の映画(1941年)などに出演したハンフリー・ボガート(AP)
      ↑ ハメットの名作「マルタの鷹」の映画(1941年)などに出演したハンフリー・ボガート(AP)

     千葉県我孫子市の田中たかしさん(46)の通勤のお供はハードボイルド系の小説。「身動きできない満員電車の中、国際スパイや酒とけんかの強い私立探偵に自分を置き換え、現実逃避している」

     男性の現実の憂さを忘れさせてくれる効用は、女性のロマンスの読書と共通するのかも……という店主の偏見に、鳥取県米子市の遠藤麗子さん(69)は、「そげかや? いやさ、女なりゃこそ『ハードボイルド!』」と米子弁で反論。ゴッホ作品を巡る謎に巻きこまれる藤原伊織『ひまわりの祝祭』(講談社文庫)を挙げ、「会話の進め方は上質の俳句のよう。自立した女性たちのりんとしたたたずまいにエールを送りたくなる」。

     日本のこのジャンルの代表格、北方謙三『さらば、荒野』(ハルキ文庫)に始まるブラディ・ドールシリーズには、大阪府吹田市、和田幸子さん(35)の推薦が。港町の酒場の経営者を始めとする武骨で熱い男たちの物語。「中学の時出会い、彼らのスタイリッシュさや情の深さに激しく心動かされて、友達と盛り上がった。アウトローの危ういかっこよさにひかれた」

     「ハード過ぎでなく、ゆるめでハートフルな作品が好み」という金沢市の佐近由香里さん(50)は、主婦が暗殺者となるホームドラマ風の荻原浩『ママの狙撃銃』、ズッコケ探偵が登場する『ハードボイルド・エッグ』(ともに双葉文庫)を推薦。あれ、やっぱり女性の投稿も多い!

     ミステリー以外からは、生き方そのものがハードボイルドだったヘミングウェーの名作『老人と海』(新潮文庫)に岐阜県八百津町、細江隆一さん(49)が1票を入れました。たった一人小舟に乗り大魚と戦う孤高の老漁師。「この男の生き方に私はれたのだった」

     ハードボイルド 1920年創刊の米雑誌「ブラック・マスク」を母体にD・ハメットにより確立されたミステリーの形式。R・チャンドラー、R・マクドナルドを含め御三家と呼ばれた。非情な世界で、私立探偵らがタフな行動で事件に向き合う。日本では戦後、高城高、大藪春彦、結城昌治、生島治郎らによって発展してきた。

    両派描き分ける作家も

     ハードボイルド派で紹介した荻原浩作品ですが、大阪市の速水峰子さん(64)からは若年性アルツハイマー症の主人公と妻の愛情が描かれる『明日の記憶』(光文社文庫)について「奥さんのけなげな姿など、ずっと余韻が残る」とロマンス派での推薦が。柳広司作品についても、『ジョーカー・ゲーム』(角川文庫)に「出てくる戦前のスパイたちがクール」と群馬県藤岡市の高山委佐美さん(45)の推薦があったほか、昭和の華族社会が舞台の『ロマンス』(文春文庫)をロマンス派で推す方も。両派描き分ける作家もすごいし、垣根は実はそんなに高くないのかも……。(佐)

    2017年11月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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