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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? 俳句VS短歌

     本当に、対決させられるのだろうか? 「本よみうり堂」の癒やし系小鬼店長に、お題を与えられ、恐る恐る投稿を募集した今回の「短歌vs俳句」。思った以上に多くの投稿をいただき、心を温かくしてくれるような短詩型文学の魅力を改めて感じました。

    俳句…潔さの奥にある哀しみ

    • 正岡子規
      正岡子規

     俳句は、「や」や「かな」など五七五を区切る「切れ字」があります。何かを切るような潔い精神が、句の命です。

     <萬緑ばんりょくや死は一弾を以て足る>

     1997年に63歳で死去した上田五千石の一句を挙げるのは、京都市の早瀬知恵子さん(68)。「若い頃は潔さを感じるばかりでしたが、最近はその奧にあるかなしさ、生へのあこがれも感じます」

     <いわし雲人に告ぐべきことならず>

     この作品は、人間探求派と呼ばれた加藤楸邨しゅうそんの句。茨城県牛久市の塚本洋子さん(88)は、「誰にも言えない胸のうちを詠み、素晴らしい」。

     多くの文学者にも愛されてきました。有名なのが明治の文豪、夏目漱石です。代表句の一つ<有る程の菊げ入れよ棺の中>には、大阪府東大阪市の冨田忍さん(71)から。「大切な人を亡くしたときに詠んだ句だそうです。しみじみと悲しみが伝わります」

     <おもむきはびて住む世の時雨かな>は、永井荷風の句。神戸市の松坂光哲さん(84)は、「俳人より文人の句は味わいがある」。

     定型があって窮屈なようで、実は俳句は自由。鳥取県米子市の遠藤麗子さん(69)が、「アバンギャルドぶりに自分の鬱屈うっくつが吹っ飛んだ」のは、戦前の新興俳句運動を牽引けんいんした西東三鬼。<寒夜明け赤い造花が又も在る>。種田山頭火は十七文字にさえ縛られません。<だまつて今日の草鞋わらじ穿く>は、東京都町田市の富岡淳一さん(64)から。

     俳聖、松尾芭蕉や明治の俳句を変革した正岡子規にも数多くの投稿がありました。最後は、「病床で心が浮き立つ様子が目に浮かぶ」と兵庫県西宮市の中井實さん(75)が語る正岡子規の名句です。

     <いくたびも雪の深さを尋ねけり>

     俳句 近世以前の俳諧などをもとに、明治の正岡子規により近代的な個人の文学作品として「俳句」の言葉が定着した。春夏秋冬および新年の季節を感じさせる「季語」を入れるのが通例だ。季節の息吹を取り込むことでこそ、五七五の短い言葉のイメージが膨らむ。<萵苣ちしゃちぎる母と娘の声は似て>(矢野玲奈、若手俳人のアンソロジー『天の川銀河発電所』左右社より)

    短歌…平安の恋 明治人の情熱

    • 与謝野晶子
      与謝野晶子

     和歌と呼ばれた平安の時代から、短歌は苦しい恋を胸に抱えたとき詠むものでした。

     宇都宮市の渡辺裕子さん(67)の一首は、平安時代の女流歌人、和泉式部の<あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびのふこともがな>です。「恋に生き、恋に生かされ、恋なくして詠めないであろう。この歌に出合って短歌派に変わりました」

     情熱ならこの人も負けない。明治の与謝野晶子の歌集『みだれ髪』に収められた<やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君>の推薦者は埼玉県鴻巣市、遠藤美穂さん(41)。「女子高時代、授業で出合い、あの時代にあふれる思いをこんな風に歌えるなんてと思った」

     <たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか>。2010年に64歳で亡くなった歌人、河野裕子さんの作品も挙げてくれました。昭和を代表する相聞歌です。

     口語で若者たちの気分を詠み、社会現象となった1987年の俵万智さんの歌集『サラダ記念日』(河出文庫)から短歌になじんだ人も多いようです。同著には香川県宇多津町の中山喜博さん(58)、宇都宮市の武藤幸子さん(71)ら多くの投稿をいただきました。

     出産、子育てなど俵さんは自分の人生とともに歌を詠んでいます。<バンザイの姿勢で眠りいる子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ>

     川崎市の千葉路世さん(53)は、「読むたびに涙が出る。子供はそこにいるだけで喜びだと改めて気づきます」。

     俵さんとともに口語短歌の第一線を走るのが穂村弘さんです。埼玉県入間市の中垣ゆかりさん(45)が、「独特の世界観が衝撃的」と驚いた作品で締めくくりましょう。<校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け>

     短歌 日本には古来、短歌や長歌、旋頭歌せどうかなど、和歌と呼ばれるものがあった。明治に入り、浪漫主義的な歌を詠む与謝野鉄幹や、西欧絵画の写生理論を掲げた正岡子規らが登場し、短歌革新が遂げられた。現在は口語を自由に使った作品が多い。<尊さと遠さは同じことだけど川べりに群生のオナモミ>(大森静佳、若手歌人のアンソロジー『桜前線開架宣言』左右社より)

    作ればもっと楽しい

     読むだけでなく、作ればもっと楽しいのが俳句や短歌だ。入門書や評論にも手を伸ばしたい。小澤實『俳句のはじまる場所』(角川選書)は、作句の心構えを紹介。俳句は<自らを抑えて低くし、向かい合う相手を高くして生かす>挨拶あいさつの心が大切と説く。

     気に入った俳人や歌人の作品を通覧して読むのも、上達の近道だ。『永田和宏作品集I』(青磁社)は、河野裕子さんの夫でもある歌人の第1歌集から第11歌集までを完全収録。<ひとひらのレモンをきみは とおい昼の花火のようにまわしていたが>。若い日の作品は、とりわけ胸が熱くしびれる。(待)

    2017年12月06日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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