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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? 昭和vs平成

     歳月の長さの差なのか、より懐かしさを感じるからか、今回の「どっち派?」は「昭和が舞台」派が数では勝りました。しかし、「平成が舞台」派も熱さでは負けていません。二つの時代それぞれに、移り変わる世相や人々の息吹を映し出す物語が並びます。

    昭和が舞台…社会派推理、華やぐ時代

    • 昭和の陰を描いた松本清張(1975年頃)
      昭和の陰を描いた松本清張(1975年頃)

     戦争、復興、そして高度成長へ。昭和は激しく揺れ動きました。千葉市、坂村公久さん(84)は、戦後の新しい社会で希望に満ちていきる若者たちを描く石坂洋次郎『青い山脈』を推薦。1949年の映画に引かれ、その後、文庫本の小説に出会い何度も読み返しているそう。「少しも古さを感じない。戦後社会を描く先駆けとなった好著です」

     一方、「松本清張のミステリーは昭和30年代の匂いがする」と『砂の器』(新潮文庫)を推すのは、静岡県磐田市、宮崎健一さん(68)。「高度成長の陰で生じたコンプレックスや憎悪が核になっている。社会派推理小説と呼ばれるのもこの辺りにあると思う」と分析します。対照的に「昭和30年代の良き日本にたっぷり浸れる」と新潟市の早川和雄さん(62)はねじめ正一『高円寺純情商店街』(同)に注目。「高度成長期の元気さや商店街の人情のこまやかさを感じる。ハエ取り紙などの描写なども懐かしい」

     やがて時代はバブルへ。兵庫県尼崎市、佐藤美佳さん(48)は「バブルの後半に青春を楽しんだ私は、断然、昭和派。世の中全体が華やいでいていい時代だった」と、当時、唯川恵さんや林真理子さんの恋愛小説など楽しんだそう。特に心に残るのは、若い女性の本音がはじける林さんのエッセー集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』(角川文庫)。「世の逆風にひるまず書きたいことを書く林さんに拍手喝采です」

     昭和の変化を振り返る意味では、昭和33年生まれの女性が犬や猫と出合いながら生きた半生と時代の流れを語る姫野カオルコ『昭和の犬』(幻冬舎文庫)はいかが。横浜市、佐藤由美子さん(73)は「『ララミー牧場』など昔の海外テレビドラマ名から取った章題が、いかにも昭和らしい」。

    昭和(戦後)出版史

    1947年(22)『斜陽』

      56年(31)『太陽の季節』

      58年(33)『点と線』

      63年(38)『竜馬がゆく』

      73年(48)『日本沈没』

      76年(51)『限りなく透明に近いブルー』

      81年(56)『窓ぎわのトットちゃん』

      87年(62)『ノルウェイの森』

    平成が舞台…バブル崩壊、災害の恐怖

    • 「ハリー・ポッター」シリーズは新刊発売のたび話題に(2006年)
      「ハリー・ポッター」シリーズは新刊発売のたび話題に(2006年)

     平成の初めはバブルでしたが程なく崩壊。「失われた10年」といわれる経済低迷が続きました。宇都宮市、堀切輝美子さん(48)はその転機に出た宮部みゆき『火車』(新潮文庫)を挙げます。「『多重債務』『自己破産』という言葉をよく耳にした頃読み、普通の人が1枚のカードをきっかけに人生の階段を転げ落ちてしまう怖さを感じた」

     横浜市、木村賢治さん(50)は、「バブルの恩恵を受けなかったこともあり、バブル崩壊後の小説が好き」だとか。オススメ作も、平成の銀行業界が舞台の池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ『オレたちバブル入行組』(文春文庫)と花咲舞シリーズの『不祥事』(講談社文庫など)。「銀行の勤務経験のある作者だからリアルさを感じる」

     平成に普及し生活を激変させたのはインターネットや携帯電話でしょう。青森市、長牛由美さん(43)は、その流れに逆らって孤独な女性が匿名の手紙に励まされる辻仁成『愛をください』を投稿。「人の温かみのある手紙にこそ優しさの根源があるような気がします」。一方、埼玉県嵐山町、遠藤真理子さん(57)は、「今時の若者を知るのにうってつけ。平成の危うさを感じつつ、変わらぬ人の優しさにうるっとする」と街や若者の風俗を生き生きと描き出す石田衣良「池袋ウエストゲートパーク」シリーズ(文春文庫)を支持します。

     「平成は災害の恐ろしさを実感した時代でもある」というのは大阪府田尻町、黒崎亜子さん(57)。阪神大震災の被災経験のある教師が、東日本大震災後に被災地の小学校に赴任する真山仁『そして、星の輝く夜がくる』(講談社文庫)を読んで、「試練を経て成長してゆく子どもたちの姿に、未来に向かう無限の力を感じた」といいます。

    平成出版史(かっこ内は元号)

    1989年(1)『TUGUMI』

    1999年(11)『ハリー・ポッターと賢者の石』

    2001年(13)『世界の中心で、愛をさけぶ』

    2003年(15)『バカの壁』

      09年(21)『1Q84』

      12年(24)『聞く力』

      13年(25)『村上海賊の娘』

      15年(27)『火花』

    時空移動、近未来も

     平成、昭和に単純に分けられない小説も寄せられました。宮部みゆき『蒲生邸事件』(文春文庫)は、平成6年から2・26事件の起きた昭和11年の東京へ浪人生がタイムトリップする話。東京都町田市、蛯谷梨枝さん(40)は「現代と昭和初期の違いも分かって、驚きと感動があります」。

     もう1作は、不老化技術の進んだ近未来が舞台の山田宗樹『百年法』(角川文庫)。山口県宇部市、黒田君枝さん(68)は、「長寿社会を迎える中で興味を持って読み、最終的に命に対する人間の思慮深さを感じた」そう。平成の次に待つ未来を、時間旅行でのぞいてみたくなります。(佐)

    2018年02月07日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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