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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? ドストエフスキーとトルストイ

     「大きく出たなぁ~、怖いもの知らず?と思ったんですが」。鳥取県米子市の吉野三也さん(51)がおっしゃる通り、“禁断”の対決に踏み込んだ今回は、ドストエフスキーとトルストイ、ロシア文学の2大巨頭への熱いメッセージが多数寄せられました。勝負の行方はいかに!

    ドストエフスキー…精神の深淵 冷徹な視点

    • ペローフ「ドストエフスキーの肖像」(1872年)
      ペローフ「ドストエフスキーの肖像」(1872年)

     フョードル・ドストエフスキーといえば、大作『カラマーゾフの兄弟』。「世界文学史上の最高傑作」と断言するのは、群馬県桐生市の高草木たかくさぎ誠さん(60)です。「人間の精神の深淵しんえんを読み解くため、10年ごとに繰り返し読みます」

     激動の19世紀ロシアを舞台に、様々な人と出来事が交錯し、人間存在の本質を問いかけます。大阪市の小久保勇さん(58)は、「世界の調和のために罪のない子どもの犠牲が必要となるのであれば、僕はその入場券を返上する、という言葉に打たれました」。

     現代のテロリズムにも通じるテーマを扱った『罪と罰』=写真は新潮文庫=も名作です。「中学1年の時に読んで衝撃を受けた」東京都町田市の山下みどりさん(62)は、ゆがんだ自尊心から殺人を犯し、次第に罪の重さに耐えられなくなる主人公の心理描写に魅せられたそうです。

     ドストエフスキーが提起した問題は、現代社会の病巣を先取りしています。埼玉県羽生市の高野和紀さん(47)は、『地下室の手記』について「インターネットのSNSの裏アカウントを想起させる」と指摘し、価値観の急激な変化に取り残された人々を描く冷徹な視点を称賛します。

     一方、時代を超えて愛される登場人物として挙げられたのが、『白痴』のムイシュキン公爵。神奈川県逗子市の長沢なおみさん(55)は、「これほど純粋で聡明そうめい、すてきな青年がいるでしょうか」と感激を隠せない様子です。

     真理を求めて苦悩する作品が多い中、『白夜』は心温まる物語です。静岡市の竹内久美子さん(57)は、「愛と善意にあふれ、別れた少女の幸せを願う青年。その幸せこそを願ってやみません」。ご紹介した作品は、新潮文庫、岩波文庫、光文社古典新訳文庫などから出ています。

     Фёдор Михa´йлович Достоe´вский 1821~81。モスクワ生まれ。46年に作家デビューしたものの、社会主義運動に加わったために逮捕、シベリア流刑を経験。その後、60年代からペテルブルクで本格的な創作活動に入る。賭博好きで借金に追われながら執筆を続け、晩年はキリスト教倫理に基づく魂の救済を唱えた。

    トルストイ…際立つ人間愛と明るさ

    • クラムスコイ「トルストイの肖像」(1873年)
      クラムスコイ「トルストイの肖像」(1873年)

     ナポレオン戦争を背景に展開される一大長編『戦争と平和』には、レフ・トルストイの作家精神が凝縮されています。札幌市の藤原興生さん(51)は、「当時、人々は救いを求めてトルストイに手紙を書き、作家はそのすべてに返事を書いたそうです。その人間性に勇気づけられます」。

     ヒューマニストだったトルストイは、「愛」で世界を救おうとします。民話集『人はなんで生きるか』を挙げた、埼玉県熊谷市の板倉愛子さん(53)は、「その問いへの答え『愛で生きる』に大変感動しました」と告白します。

     『アンナ・カレーニナ』=写真は岩波文庫=のような悲劇でも、人間愛は際立ちます。千葉県木更津市の曽我部員義かずよしさん(69)は、主人公とは対照的な人生を歩むリョービンに人間肯定の精神を見ます。「ドストエフスキーにはない明るさが感じられ、生きる上で力を与えてくれる」

     嫉妬から妻を殺す夫を描いた『クロイツェル・ソナタ』を挙げた兵庫県三木市の矢野博さん(60)は、「異常さを凝縮させたようなドストエフスキーの登場人物とは違い、平凡な人物が、その平凡さゆえに事件を起こす。等身大の人間を理解したいならトルストイを読むべきだ」と力説します。

     「もし居酒屋で飲みながら語り合うならトルストイ」という、大津市の松田翔さん(30)は、民話を素材にした『イワンのばか』を推薦します。「私利私欲を捨てて誠実に生きることこそ尊敬に値するというメッセージが伝わってきます」

     晩年の大作『復活』は、作家の集大成的作品です。札幌市の村中せつ子さん(79)は、「動物のように欲望を満たすだけだった主人公ネフリュードフが、『精神的人間』へと復活を遂げる壮大な物語に圧倒されました」。

     Лев Николаевич Толстой 1828~1910。トゥーラ近郊の裕福な貴族の家に生まれた。52年にデビューした後、軍役を経て、『戦争と平和』(69年)で名声を確立。晩年は反戦・非暴力主義を唱え、質素で禁欲的な生活を送った。ヒューマニストとして世界的に知られ、武者小路実篤ら日本の作家にも影響を与えた。

    大作家続々 黄金時代

     19世紀半ばはロシア文学の黄金時代といわれ、ドストエフスキー、トルストイのほか、ゴーゴリやツルゲーネフなどの大作家を輩出した。一方、急速な近代化に伴う社会の変化は、多くの矛盾や対立を生み、心ある芸術家は社会活動に身を投じた。

     壮年期の文豪を描いたイワン・クラムスコイ(1837~87)、ワシリー・ペローフ(1834~82)は、共に既成のアカデミズムを否定し、各地で巡回展を開きながら新しいリアリズム絵画を模索した「移動派」の画家。上に掲げた2枚の肖像画は、モスクワのトレチャコフ美術館で見ることができる。(良)

    2018年06月06日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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