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    自分がもし本屋を開いたら――。本好きな著名人が登場し、書店主になりきります。

    7月の店主は戌井昭人さんです

    酒飲みの本 川辺の小屋で

     わたしはそれほど酒飲みではないと自分では思っているが、普通の人より飲むかもしれないと思うこともある。しかし、今回紹介する方々の本を読んでいると、自分なんて、たいしたことないと思えてくる。

     とにかく、酒を飲む人の本を読んでいると楽しくなって来る。一方で、酒におぼれていく恐ろしさを書いた本もたくさんあるけれど、そっちの方は、今回、忘れることにする。

     酒飲みの本を読むなら、酒場が最適なのかもしれない。新橋などで、焼鳥をつまんでビールを飲みながら、ひらいた文庫本を片手で持っているサラリーマンなどを見かけたりすると、「なんだか良い感じだなぁ」と思えてきて、こっちもうれしくなってくるのだった。だから自分も何回か真似まねしたことがある。

     一方で酒場は、うるさかったり、暗かったり、煙たかったりするので、常に本を読めるような場所ではない。それに、そもそも酒場は本を読む場所ではない。酒を飲む場所だ。

     そこで、わたしが考えたのは、川っぺりにあり、ちょっと飲んだり、ダラダラできる本屋さん。

     場所は京王多摩川のあたりがいい。バラック小屋のような木造の建物があって、内側に入ると、四方の壁に本棚があって、びっしり本がつまっている。

     小屋には、本しか置いてない。なんとなく分類されていて、今回紹介する本のように、昼から酒を飲んでも罪悪感のわかない本のコーナーがある。さらに酒を飲むことに罪悪感がわくコーナーも作っておく。

     本だけ置いてある小屋の隣には、もうひとつ小屋があって、そこが会計場所になっている。ビールや酒、缶詰、乾き物などの適当なつまみも置いてある。

     そして、店の前には、川に向かって、ベンチや椅子、ビーチチェアが置いてあり、本を購入してくれた人は、ビーチチェアを使用することができ、寝転がったりして、一杯飲みながら、本を読むことができる。

     川を眺め、本を読み、酒を飲み、眠たくなったら昼寝をしても構わない。

     「どうぞ、お好きにやってください」といった感じの本屋です。

     しかし、酒場ではなく、あくまで本屋なので、酔っ払うのもいけません。お日様の光で本を読んでもらうのが目的なので、が暮れると閉店します。

     いぬい・あきと 1971年東京生まれ。作家、劇作家。97年、パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ。「すっぽん心中」で川端賞、『のろい男 俳優・亀岡拓次』で野間文芸新人賞を受賞。

    店主の1冊

    ●『シアワセのレモンサワー』(東陽片岡著、品切れ)漫画家の東陽さんが日常をどう過ごしていくか提案する。面白おかしく、シアワセのハードルを下げるのが重要なのだと気づく。

    ●『はしもてば』(石田千著、新講社、1700円)石田千さんの日常がつづられ、美味おいしそうなものが、いろいろ。千さんの見ている風景も心にみて、お酒を飲みたくなってくる。

    ●『イスラム飲酒紀行』(高野秀行著、講談社文庫、770円)酒の飲めない国で、いかにして飲もうか奮闘する高野さん。その奮闘ぶりが、おかしく、酒への情熱に感動すら覚える。

    ●『多摩川飲み下り』(大竹聡著、ちくま文庫、720円)多摩川沿いを上流から下流へ歩く、そして酒を飲む。酒場、川沿いのベンチ。読んだら、同じことをやってみたくなる。

    ●『泥酔夫婦世界一周』(松本祐貴・友紀子著、オークラ出版、1343円)世界で飲みまくる夫婦。ほのぼの、でも二日酔いはハードだ。飲むことは人と出会うことでもある。

     丸善丸の内本店(JR東京駅前)の3階で、近日中に戌井昭人さんの「空想書店」コーナーが登場します。

    2017年07月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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