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    自分がもし本屋を開いたら――。本好きな著名人が登場し、書店主になりきります。

    8月の店主は阿部智里さんです

    難あり 注文の多い店

     みなさんこんにちは。私は『ねむねむ堂』の店主です。

     人通りの多い道の脇、うっかり見過ごしてしまいそうな細い階段の手すりに『今日はあいてます』と書いてある看板がぶらさがっている日のみ、お店をやっています。階段を下りた先、古民家を改築した店舗にかぶさる合歓ねむの木が店名の由来ですが、大抵のお客さんはあきれた顔で「注文の多い書店だ」とおっしゃいます。

     人を食べる山猫はいませんが、気難しい茶トラの猫と、大きな雑種犬がお出迎えします。手を出すと、猫は容赦なく引っかきますし、犬はベロベロとめまわしますので、彼らを突破しないと入店出来ません。しかも、やっと入った店内には、彼らよりもよっぽどやっかいな生き物が待っているのです。

     店のはりには、多肉植物の鉢植えやら、ステンドグラスのランプやらがぶらさがっています。壁に据え付けられた本棚には、アイスブルーの翼を持った七宝焼きのツバメのピルケース、桜色の貝で出来た万華鏡に、那智黒石で出来た八咫烏やたがらすの石像などが並び、青磁の丸々とした香炉からは、常にお香がくゆっています。そして奥のカウンターで、まっとうな書店さんと間違えて迷い込んでくるお客さんを、今か今かと待ち構えているヤツがいます。

     つまりは、私です。

     『ねむねむ堂』は、書店のくせに品揃しなぞろえが極めて悪く、店主はおしゃべりで、問答無用で紅茶やハーブティー、お菓子などを押し付け、お客さんがこれまで一番面白いと思った本が何かをしつこく聞きだそうとして来る店です。そして帰り際に、店主からも一冊本をおすすめされ、半ば強引に「お買い上げ」させられるのです。

     とんでもない店です。もし私がお客さんだったら、二度と来ないかもしれません。しかし時々、私が押し売りした本をお読みになって、「面白かったよ」とリピーターになってくださる奇特な方もいらっしゃいます。そして、きまぐれにもう一度来て下さった方は、本棚に、前回自分がすすめた本が置いてあることに気付いてくださいます。そうです。『ねむねむ堂』には、誰かが「とっても面白い!」と思った本しか置いていないのです。

     お客の都合も考えない、難ありの猫犬店主が待ち構えている注文の多い書店、『ねむねむ堂』。入店の際は、くれぐれもご注意を!

     あべ・ちさと 1991年生まれ。2012年、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。現在、早大大学院在学。和風ファンタジー「八咫烏やたがらすシリーズ」の第1部完結編『弥栄いやさかからす』(文芸春秋)を7月末に刊行。

    店主の1冊

    ●『闇のびと』(上橋菜穂子著、偕成社ワンダーランド、1500円)既存文化の借り物ではない、本物の異世界が構築されています。個人的には『闇の守り人』が好きですが、シリーズまるごと読んで欲しい傑作です。

    ●『歴史とは何か』(E・H・カー著、清水幾太郎訳、岩波新書、820円)大学で歴史の勉強を始めたとき、最初に読むようにと言われた一冊。私達が思う『歴史』って、本当に歴史?

    ●『アルテミス・ファウル 妖精の身代金』(オーエン・コルファー著、大久保寛訳、角川文庫、667円)悪の天才少年が人間から逃れ地下に文明を築く妖精の誘拐を計画する!

    • 『百鬼夜行抄』
      『百鬼夜行抄』
    • 『絡新婦の理』
      『絡新婦の理』

    ●『百鬼夜行抄』 (今市子著、朝日新聞出版、25巻まで)死んだお父さんの体には妖怪が住んでいる。それに気付いているのは家族でなんと自分だけ! コミカルな正統派ホラー。

    ●『絡新婦じょろうぐもことわり』(京極夏彦著、講談社文庫、1580円)高校時代、「辞書より厚い」「人を撲殺できる」と評判でしたが、厚さのインパクトを上回って、ただひたすらに面白い。

     丸善丸の内本店(JR東京駅前)の3階で、近日中に阿部智里さんの「空想書店」コーナーが登場します。

    2017年08月23日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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