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    自分がもし本屋を開いたら――。本好きな著名人が登場し、書店主になりきります。

    2月の店主は北原尚彦さんです

    古今東西 ホームズづくし

     名探偵シャーロック・ホームズには、相棒のワトスン博士が欠かせない。この二人は“バディ物”の史上最も成功した例だろう。産業革命による変化の過程にあるヴィクトリア朝ロンドンという舞台も、シャーロック・ホームズの魅力のひとつだ。

     コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ物は、一説によると聖書の次にたくさん世界中に翻訳され、読まれているという。わたしも夢中になって読んだクチだ。全六十ぺん(短篇集五冊+長篇四冊)を全て読み終わってしまった際に「これでもう終わりか……」と思ったものの、別な作家が書いたホームズ物もあることにハタと気が付いた。原典そっくりに書いたパスティーシュや、面白おかしく茶化したパロディだ。これらを読み続けていれば、いつまでもホームズは「終わらない」のだ。小説以外に、研究書も色々と出ているではないか。

     ……かくして、自分の中でシャーロック・ホームズを「完結させない」ために様々なホームズ関係書を追いかけ、いまだに収集し続けている。

     洋書まで手を伸ばし、今のようにネット書店が発達していない時代には、海外の古書店からカタログを取り寄せた。またロンドン旅行の際には、現地のミステリ専門書店へも行った。ホームズ関係書だけの棚の前に立った際は、感動したものだ。

     それから数十年。最近はホームズ・ブームで逆の苦労がある。新刊が次々に出るので、チェックするのも大変なのだ。これからホームズ関係書に手を伸ばそうという読者は、絶版本も多数あるので、旧刊を調べ、自分好みの本を探すのも難しいだろう。だから、「シャーロック・ホームズ書店」を開くなら、新刊と古書の両方を置きたい。

     見た目がマニアックすぎると普通のお客さんが入りにくいだろうから、店の何分の一かはマグカップやトートバッグなどのグッズも置こう。

     だが目つきの鋭い客が来て「……大正三年の『怪奇小説 意外の怪物』を見せてくれ」と言われれば、「『バスカヴィル家の犬』の本邦初訳を……お客さん、ツウですね」とニヤリとして、鍵のかかったガラスケースから出してみせるのである。

     きたはら・なおひこ 1962年東京都生まれ。作家、翻訳家、アンソロジスト。著書に『首吊少女亭』『シャーロック・ホームズの蒐集(しゅうしゅう)』『SF奇書天外』など。

    店主の1冊

    ●『シャーロック・ホームズの冒険』(アーサー・コナン・ドイル著、創元推理文庫、900円)ホームズを初めて読む方には本書をお勧めすることにしている。「まだらのひも」など有名作や傑作ばかり十二作を収録。


    ●『シュロック・ホームズの冒険』(ロバート・L・フィッシュ著、ハヤカワ文庫、760円)ホームズ・パロディ代表作。題名もじりもあるので、原典を知っているほど楽しめる。

    ●『シャーロック・ホームズの栄冠』(ノックス、バークリー他著、創元推理文庫、1000円)正統派から珍品まで、有名・無名作家のパロディ/パスティーシュを集めたアンソロジー。

    ●『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(松岡圭祐著、講談社文庫、830円)ホームズが来日して伊藤博文と出会い、歴史的な事件を解決していた!という日本産パスティーシュ。

    ●『名探偵シャーロック・ホームズ事典』(日本シャーロック・ホームズ・クラブ監修・執筆、くもん出版、2800円)ホームズに関する物事がバランスよく解説された児童書。

     丸善丸の内本店(JR東京駅前)の3階で、近日中に北原尚彦さんの「空想書店」コーナーが登場します。

    2018年02月21日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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