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    自分がもし本屋を開いたら――。本好きな著名人が登場し、書店主になりきります。

    4月の店主は最果タヒさんです

    本へあてた詩を添えて

     本屋さんも一冊の本であるように思っている。棚の前に立って本を選ぶのは私にとって特別で、見ているうちに私は棚に並んだ背表紙たちを、それ自体を、読み物として、みているように錯覚もしていた。本を選ぶという行為は、すでに、読むという行為の始まりなのかもしれなかった。だから本屋を作るなら、私は読むということをその場で繰り広げられるお店にしたい。

     以前、詩集刊行を記念して選書フェアをさせてもらったとき、私はポップに本の紹介とは別に、その本へあてた詩を書いていた。もし、本屋をやるなら、それをすべての本にできたらすてきだ。詩では、本のことをわかりやすく説明することはできない。けれど一方で、内容がわからなくてもほしくなる本がこの世には確実にたくさんある。どうしてこの本が気になるのかはわからないけれど、でもどうしても無視できない。そんな出会いが、特別だって信じている。背表紙に書かれたタイトルだって、なんだかそんな出会いを待っているように思うんだ。

     タイトルは、ただ本の内容を説明するだけのものじゃない。タイトルを読むだけですべてがわかったようになると、本を手に取ってもらえなくなる。だからといって、わからなすぎてもよくないし、とても感覚的なものだと思う。人が、初対面の人と話すとき、近づきすぎないよう、遠すぎないよう、調整していくのに近い。そんな言葉だから、本屋に並んだタイトルを見るとそれだけで読み物だ、と思うのかもしれないし、そこに詩があることで、その距離感が立体的なものになるのではとも思っている。詩も別方向からちょうどいい距離を探している言葉だ。近さだけでなく、息遣いみたいなものがそこに見えてきたらいい。

     今回5冊の本を紹介できる、とのことで。詩の一文で紹介させてもらいました。といっても本屋のようにその場でぱらっとめくることはできないから、それとは別で、ここにどんな本か、わかりやすいことも一応書いておこうと思います。『あなたの人生の物語』は、SF短編集。『ちいさなうさこちゃん』は絵本。『詩と科学』は物理学者の随筆集。『ニューヨークで考え中』は、ニューヨークに移住した著者のコミックエッセイ。『ルナティック雑技団』は恋愛漫画のふりをしたギャグ漫画です。

     さいはて・たひ 1986年生まれ。詩人。2008年、第1詩集『グッドモーニング』で中原中也賞。15年には『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。小説に『星か獣になる季節』など。

    店主の1冊

    ●『あなたの人生の物語』(テッド・チャン著、ハヤカワ文庫、960円)「いつか全ての人と別れることになる、そうわかっていても、ぼくら離れようとはしなかった。この瞬間だけ、見える。透明な命が。きみの、光を反射して。」

    ●『ちいさなうさこちゃん』(ディック・ブルーナ著、福音館書店、700円)「きみの生まれた日が、ぼくの過去にも編み込まれて、知らぬ間にぼくは優しくなる」と書きたくなる。

    ●『詩と科学』(湯川秀樹著、平凡社、1400円)「詩と科学は両輪となって、ぼくを果てへとつれていく。そこにはきっと生まれた頃のぼくが、待っているんだ。」と、書きたくなる。

    ●『ニューヨークで考え中』(近藤聡乃著、亜紀書房、1000円)「人生という物がぼくに見える日は来ないのかもしれない。指先のように、ぼくは生活を愛しているから。」と書きたい。

    ●『ルナティック雑技団』(岡田あ~みん著、集英社、600円)「愛に飽きないのは、愛が感情のマスターピースなんかでは、ないからさ。きみがそれを認めなくても。」と書きたい。

     丸善丸の内本店(JR東京駅前)の3階で、近日中に最果タヒさんの「空想書店」コーナーが登場します。

    2018年04月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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