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    長く読み継がれてきたおすすめの文庫を紹介します。

    『橇/豚群』 黒島伝治著

     小林多喜二『蟹工船かにこうせん』は今読むと、労働者集団が主人公のハードボイルドのようで、ドライな文体に清新さがある。同じプロレタリア文学を代表する作家、黒島伝治(1898~1943年)の作品を読み返して、石ころのような簡潔なリアルさに驚いた。

     シベリア出兵時の軍役体験をもとにした「渦巻けるからすの群」や「橇」では、凍てつく大地の空気と、軍上層部の気まぐれな行動や不注意がもたらす末端の人間の悲劇を簡潔かつ具体的に記す。

     香川県小豆島の農民の子に育った見聞から生まれた「豚群」では、農民による抵抗の滑稽と悲惨を軽妙に描き、「二銭銅貨」は、たった2銭を惜しんで、息子に普通よりも短い独楽紐こまひもを買い与えたことで起きた、貧しい家の悲劇を一筆書きのようにして描き、悲しみが凝固している。

     上京してからも田舎ことば丸出しだったという作家は、プロレタリア文学という当時の新しい意匠よりも、目の前の現実をじっくり見つめた。そこに古びぬ新しさと強さがある。(講談社文芸文庫、1400円)(鵜)

    2017年08月30日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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