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    長く読み継がれてきたおすすめの文庫を紹介します。

    『高丘親王航海記』 澁澤龍彦著

    • 高丘親王航海記
      高丘親王航海記

     マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介し、異端、悪徳、幻想に光を当て、三島由紀夫をして、〈この人がいなかったら、日本はどんなにさびしい国になるだろう〉と言わしめた澁澤龍彦が没後30年を迎えた。

     本書は、その遺作となった読売文学賞受賞作の新装版。平安時代に天竺てんじくに向かった高丘親王の事蹟じせきを踏まえた小説だが、奇想天外という日本語は本書のためにある。鳥の下半身をした女、人間のよい夢を食うと馥郁ふくいくたるくそをひるばく、下腹部に鈴をつける犬頭人……。食って寝て、寿命がくれば死ぬのは動物も人間も同じ。人生に目的なんかない、常に新しい快楽を求めようと『快楽主義の哲学』で宣言した人ならではの蠱惑こわくに満ちた航海記である。

     執筆中に下咽頭かいんとうがんになり、声を失ってからも書きついだ作品に死の影はあっても暗さは微塵みじんもない。〈初めての経験を待ちのぞむ、むしろ楽しいとさえいえるかもしれない予感〉があるとまで記した。病んでなお旅に遊び、夢は世界を駆けめぐる。ここに澁澤の本領がある。(文春文庫、720円)(鵜)

    2017年09月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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