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    長く読み継がれてきたおすすめの文庫を紹介します。

    『笛ふき天女』 岩田幸子著

     人気復活の昭和の作家、獅子文六(本名・岩田豊雄)の妻による回想記――これがめっぽう面白かった。幸子はまさに天上のひとで、岩国城主・吉川家の分家に育ち、父は岩倉使節団に留学生として随行した国際人。両国の花火は、お茶の水のニコライ堂の前にあった47部屋もある豪邸の4階から眺めた。女子学習院時代は、高松宮妃殿下になる徳川喜久子さんと交流し、最初の夫は松方コレクションで知られる松方幸次郎の四男という華麗なる一族である。

     しかし、幼くして父と死別、12歳で関東大震災に遭い、家は全焼、結婚3年で夫を亡くす。戦中は、自家製のわら草履をはき、肥桶こえおけをかつぎ、戦後は勤め人になった。そんな「てんやわんや」な日々を天真爛漫らんまんさを失わずに生きる姿は、文六作品の登場人物のようだ。

     39歳で、人気作家と再婚し、男児をもうけてからは、「文六―勝手=0」と言われた夫の根のやさしさを愛し、わがままに悩み、1969年に文化勲章を受けた直後に死去した夫との日々を慈しむ。こんなおひいさまもいたのか!(ちくま文庫、740円)(鵜)

    2018年05月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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