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    読売新聞の書評担当記者が選ぶおすすめの1冊です。

    『ユーリー・テミルカーノフ モノローグ』 ジャミーリャ・ハガロヴァ著

     功成り名を遂げた音楽家の自伝は、得てして退屈な自慢話が多い。しかし、ジャーナリストの聞き書きによる、ロシアの世界的指揮者の「独白」は、それらと一線を画した自制心と内省によってつづられている。

     今年80歳を迎える巨匠によれば、芸術はまったく謎だらけで、指揮は呪術か何かに類するもの、特殊な言語であり、才能がなければ習得不可能とにべもない。これは高慢な物言いではなく、芸術への畏怖の念を率直に吐露したものだろう。

     テミルカーノフの音楽には、妥協を許さない厳しさと即興的なユーモアが混合している。自己の客観化から生まれる、ある種の余裕だろうか。シニカルな人生観・処世術は、ロシアの伝統的な知識人をほうふつとさせて興味深い。小川勝也訳。(アルファベータブックス、2500円)(良)

    2018年05月16日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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