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    読売新聞の書評担当記者が選ぶおすすめの1冊です。

    『小屋を燃す』 南木佳士著

     信州の田舎町にある総合病院に40年勤めた男は、定年退職のときを迎えた。一方で仲間とイワナを釣り、小屋を作って語らい、また燃やしてしまう――。

     「ダイヤモンドダスト」で1989年に芥川賞を受賞し、医師の傍ら私小説的な作品を紡ぎ続けてきた作家の連作短編集だ。幼いときに母を亡くした心の傷。命を扱う現場に立つ医業と作家業の両立で無理がたたり、病気になった苦しみ。定年まで生きてきた男の感慨。四季の移ろいと地に足のついた人の営みを感じさせる小説の言葉から、不意に著者が心の奥底に押し鎮めたものが浮かび上がる。

     南木さんの小説は、田んぼの脇を流れる細い用水路に手をつけることと似ている。穏やかな流れだと思っていると、冷たいものや激しいものに触れるのだ。(文芸春秋、1500円)(待)

    2018年05月16日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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