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    本にまつわるさまざまな話題を特集します。

    「長いお別れ」 中島京子さん

    亡き父の実話が下敷き

     賞をもらう度、励まされもするが、緊張もするという。「これから先、もっといいものが書けるのだろうかって」。ただ、今回の受賞については別に思うことがあった。「賞は父にささげようと。いろんなエピソードを勝手に書いてしまったので、その罪滅ぼしに」

     『長いお別れ』が描くのは、認知症となった父と家族の最後の10年という時間だ。もちろんフィクションだが、このテーマでの執筆を決めたのは、2年前に亡くなったフランス文学者の父・昭和さんが晩年、認知症を患ったことがきっかけだった。作中には、昭和さんの実話を下敷きにした話をいくつも書いていた。

     「だから、若干後ろめたいところがあったんです」

     とは言うものの、物語は重苦しいものとはならなかった。介護の大変さに触れながらも、父の突拍子もない言動が巻き起こす珍騒動や、母のたくましさ、3人の娘やその家族の生活の中で起きる様々な出来事を、ユーモアを交えてつづっていく。「誰かの病気が進んでいくのは日常と切り離された出来事ではないし、父の晩年もおとしめられるようなものではなかった」

     この病気になれば、人間らしく生きられないのではないか――。多くの人と同様、中島さんも以前はそう考えていた。が、やがて気づく。記憶や言葉が失われていくのは悲しく、つらいことも少なくなかったが、父は楽しい思い出もたくさん残してくれた。電話で愚痴をこぼした時などは、話の内容は理解していないはずなのに声のトーンで察したのか、ままならぬ言葉で慰めようともしてくれた。

     「認知症を英語ではロンググッドバイとも言うそうです」。――長いお別れ。そのいとしく、大切な時間に込められた家族の思いが、本書にはあふれている。(文化部 村田雅幸)

    2015年10月14日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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