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    【エンタメ小説月評】終末世界のハードボイルド

     2年前にベン・H・ウィンタース『地上最後の刑事』を読んで驚いたことをよく覚えている。

     半年後には小惑星の衝突によって人類が壊滅的な打撃を受ける世界を生きる若手刑事パレスの物語だが、これが3部作の第1作だったからだ。ここからどう物語を展開させるのか、といぶかった。

     だから、シリーズ完結編となる『世界の終わりの七日間』(上野元美訳、早川書房)を読み終えた時には、杞憂きゆうに終わったことにほっとするとともに、静かな感動が身を包んだ。最終巻では衝突が数日後に迫る中、刑事を辞めたパレスは、地下活動家となった妹のニコに会おうとする。

     シリーズが進み、終末が迫って来る中で、生産は途絶えて食料や資源は枯渇し、人の心は恐怖と諦念で荒れ果てていく。人捜しというのはハードボイルド小説の定番ともいえる題材なのだが、反ユートピア的な終末世界を緻密に構築することで、調査行を続けるパレスの切実さと孤独が際立っていくのだ。

     ラストシーン近く、静まりかえった道を一人、自転車で走っていくパレスの姿が印象に残る。設定こそSF的だが、ハードボイルド小説の王道を行く力作だ。

     一方、恒川光太郎『ヘブンメイカー スタープレイヤー2』(KADOKAWA)は、異世界で10の願いをかなえる力を与えられた者たちを巡るファンタジーの第2作。力を使って自分のいる異世界に、殺された旧知の女性と無人の街を呼び出した逸輝。事故死してから異世界に呼び出され、新たな世界を探索する孝平。二人の青年を中心に物語は進んでいく。

     第1作の『スタープレイヤー』(同)は、神話的な色合いがあった。平凡な女性が、異世界に放りこまれ、自らに与えられた法外な力と限界、絶対者の孤独を知っていく物語だったからだ。今作では、秩序を作る者と巻き込まれた人の視点を対比し、嫉妬や欲望といったミクロの物語と、民族の対立など大きな物語が絡みあうことで大河小説として深みを増した。

     続いて、西村健『光陰のやいば』(講談社)を。明治から昭和にかけて活躍した実業家・團琢磨だんたくま(1858~1932年)と、その暗殺に関わった井上日召にっしょう(1886~1967年)の二人の生涯をたどる大作だ。

     アメリカ留学後、九州の三池炭鉱の近代化に成功し、経済界のトップに上りつめた團と、大陸浪人として死に場所を探し、僧となってから直接的な世直しへと突き進んだ井上。稗史はいしというべき挿話がストーリーを彩り、二人の個性が形成されていく過程を浮かび上がらせる。テロ事件に至ってしまった歴史の皮肉を、明治から第2次大戦へと向かう時代の流れとともに描き出した。

     最後に、井上荒野『ママがやった』(文芸春秋)を。79歳の母が7歳年下の父を殺した。理由をたずねる息子を前に、母親は他人事のように昼食の用意を始め、姉は「理由を知ってどうするの」と叱る――。極めて奇矯な家族の年月が、八つの短編で描かれる。

     淡々とした描写が続く中で、他者にむけるささやかな悪意と、奇妙に団結させる意識が「霧」のように物語を覆い、読み手の心を激しく波立たせていく。家族小説では、昨年も姫野カオルコ『謎の毒親』(新潮社)という秀作があったが、家族の不思議さについて考えずにはいられない。(文化部 川村律文)

     ★5個で満点。☆は1/2点。

    ベン・H・ウィンタース『世界の終わりの七日間』

    ハードボイルド度  ★★★★★

    終末世界の緻密さ  ★★★★☆

    満足度       ★★★★☆


    恒川光太郎『ヘブンメイカー』

    異世界と現実の融合 ★★★★

    想像力喚起度    ★★★★

    満足度       ★★★★


    西村健『光陰の刃』

    主役の個性     ★★★☆

    魅力的な脇役と挿話 ★★★★☆

    満足度       ★★★★


    井上荒野『ママがやった』

    家族小説度     ★★★☆

    全編を覆う不穏さ  ★★★★★

    満足度       ★★★★

    2016年01月28日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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