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    『不時着する流星たち』刊行 小川洋子さん

    埋もれてしまう何かに光

    • 1か月に50キロを目標にジョギングを続けているという。「積み重ねていく作業が好きなのかもしれません。走っている時、良いアイデアが浮かぶことがよくありますね」=繁田統央撮影
      1か月に50キロを目標にジョギングを続けているという。「積み重ねていく作業が好きなのかもしれません。走っている時、良いアイデアが浮かぶことがよくありますね」=繁田統央撮影

     小川洋子さんの短編集『不時着する流星たち』(角川書店)は、風変わりな人物や出来事にインスピレーションを受けたファンタジー10編からなる。死者や過去の出来事に「物語を見いだした」という。

     空港ロビーでカタツムリを競走させる男たちの話「カタツムリの結婚式」。夫婦関係にかすかな亀裂を感じた主人公が取りつかれたように空のベビーカーを押して歩き続ける「さあ、いい子だ、おいで」――。本短編集では、登場人物の意表をつく行動にぼうぜんとさせられる。

     「この人たちは、人間が内包する狂気や不可思議さを素直に表しています。その行動がハタから見れば常識や法律から外れていても、人間は一人ひとりそこからはみ出していかざるをえない事情を抱えて生きている。作家とはその“事情”を描く職業では?」

     10編は全て作家がゼロから組み立てた完全な創作にも映る。だが、実はそれぞれのストーリーを書く上で触発された実在の人や事柄が存在し、各短編の後に、その紹介文が付されている。

     例えば10編目の「十三人きょうだい」。愛妻家で知られる植物学者・牧野富太郎(1862~1957年)に13人の子供がいたことや、妻・寿衛すえさんの没後、その名にちなみ新種のササを「スエコザサ」と命名したエピソードにヒントを得たファンタジーだ。

     この短編の語り部の少女は、13人きょうだいの末っ子の叔父を慕う。だが、子だくさんの祖父母は叔父に名をつけ忘れ、誰もその悲劇に気づかないままという設定。〈名前がないなんて、かわいそう〉と同情する少女に叔父は答える。〈この世にあるものは何だって、神様が創った時には別に名前なんてないんだ〉〈木陰に笹が生えてる。スエコザサだ。初めて発見した植物学者が、病気の奥さんの名前をつけたんだ〉

     「物語にして残さなければ、埋もれてしまう何かがあると感じました。放っておけば、それはこの暗闇をさまよい続けてしまう。そういう意味で、私はあらかじめあるものを見いだした“発見者”の気持ちです」

     だが、その発見を手柄とし、自らの小説のために“利用”したわけではない。「科学者や数学者は自分より大きなものの前にひざまずく。作家もそうであるべきです」。その言葉は、代表作『博士の愛した数式』(新潮文庫)で老博士が数式の美の前にぬかずく姿にも通じる。

     「発見した対象に形を与えないのは本当の意味でかわいそう。こんな人々がいたと知った時、私は素通りできなかったんです。目の前に泣いている赤ちゃんがいたら無視できないのと同じで、これは母性に近いのかもしれません」

     子育てが一段落し、心境に変化があったという。「『愛情の行き場を失った気持ち』と言えばいいのでしょうか。とにかく自分の時間を自分以外の何かのために使いたい」。作家が愛を注ぐ新たな対象を見つけた時、本短編集が生まれた。(武田裕芸)

     ◇おがわ・ようこ 1962年岡山県生まれ。88年に「揚羽蝶が壊れる時」で作家デビュー。91年に「妊娠カレンダー」で芥川賞。『博士の愛した数式』は2006年に映画化された。06年に『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞。現在、芥川賞選考委員。

     ◎お気に入り

     ★ミュージカルのパンフレット 最近ミュージカルにはまっています。福井晶一さんの大ファンです。福井さんの歌声を聴くと、人間がまだ動物のように歌で求愛していた頃の野性を呼び覚まされる気がします。

     ★アンティークの指輪 もともと古い物が好きですね。これをかつて着けていた人はもう亡くなっているかもしれません。死者とつながっているという感触が、自分には必要な気がします。

    2017年02月15日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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