<速報> 横綱稀勢の里、休場を届け出
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    「大暴落 ガラ」刊行 幸田真音さんに聞く

     東京都心を襲う洪水と、日銀の債務超過への不安が引き起こした「円・国債・株」のトリプル安。かつてない二つの危機に見舞われた日本を、初の女性総理・三崎皓子(こうこ)は救えるのか?―――。ヨミウリ・オンラインで1年間にわたって連載された「大暴落 ガラ」がこのほど単行本として刊行された(中央公論新社、税別1700円)。著者の幸田真音さんに作品に込めた思いなどを聞いた。

    この国の景気浮揚策に潜む危機

     ――執筆の動機についてお聞かせください。

     「大暴落 ガラ」は、2014年に刊行した「スケープゴート」の続編でもあります。この作品は、2015年春、黒木瞳さん主演で、WOWOWの連続テレビドラマとして放送されました。

     完成披露イベントには、黒木瞳さんや共演の石丸幹二さん、佐々木希さん、古谷一行さんら豪華俳優陣と一緒に、私も原作者として登壇したのですが、そのステージ上で黒木さんから、「総理大臣になった後の三崎皓子を書いてほしい」と言われたのです。思いもよらない言葉に、大勢の観衆の前で、とっさに「お任せください」と答えてしまいましてね(笑)。

     そして、もう一度三崎皓子を登場させることで、私が一番に伝えたかったのが、長年続いてきた日銀に依存するばかりのこの国の景気浮揚策が、実は大きな副作用を生んでいる、という事実です。

     日銀による、禁じ手ともいえるほど大量の国債の買い入れによって、表向きは平穏を保っているかに見える国債市場。しかし、実はとんでもない危機が、すぐ目の前の薄い氷の下に潜んでいて、その氷は時間の経過とともに薄くなっている、という実態です。

     そういったことを、もっと多くの人々に知っていただくためには、三崎皓子に総理大臣として苦労してもらうしかない、そう考えました。

     ――都心での洪水を食い止めるべく必死に闘う河川事務所の職員、また、未曾有の金融危機に際し、日本経済を支えるために決断する銀行員、そして危機管理に奔走する官邸。〝現場〟の臨場感が作品を盛り上げます。

     金融市場の関係者はもちろん、政府の危機管理の部門、意思決定のプロセスなどは、実際の体験者にこっそりお話を(うかが)いましたし、なかでも国土交通省の荒川河川事務所で危機対応の現場を担当されている方には、大変お世話になりました。そうした現場の方々のご協力がなければ、この作品は書き終えられなかったと思います。

     みなさんが取材に時間を割いてくださるのは、日々、それぞれの現場でご尽力されるなかで、〝真の危機感〟を持っていらっしゃるからだと感じました。いくら頑張っても、なかなか思うように動かない国民、国の組織、システム、法律、そういったものへの理不尽さや、歯(がゆ)さなど、お話をうかがって私がひしひしと感じたものを、物語のなかに精一杯込めたつもりです。

    女性のトップ誕生 遠い日ではない

     ――「大暴落 ガラ」では初の女性総理・三崎皓子の活躍が描かれます。日本では小池百合子都知事が話題ですが、国内外での女性リーダーの活躍について、どうご覧になっておられますか。

     先日、雑誌の『婦人公論』で、小池都知事と対談をさせていただきました。実は4年前、『スケープゴート』執筆にあたり、小池さんにもお話をうかがったため、久し振りの再会となりました。都知事という重責を担われ、その手応えを感じ、充実したご様子がひしひしと伝わってきました。

     それにつけても、前作での取材のとき、「女性が総理大臣になるなんて日本ではあり得ない」という声が多かったことを思い出します。しかしだからこそ、トップに女性が就いたときこそ、日本が本当に変われるのだ、という思いを強くしたことも蘇ってきますね。

     ただ、現実には、昨年のアメリカ大統領選挙でも、女性大統領の誕生は惜しくも実現しませんでした。「大暴落 ガラ」をYOLで連載中に選挙がありましたので、期待通りにクリントン大統領が誕生すれば、三崎皓子と会わせようとひそかに考えていたのですが・・・・・・。

     とはいえ、日本の民間企業では、女性の登用や活躍が力強く、着実に進んでいます。東京には女性知事が誕生しました。女性のトップ誕生は、決して遠い日ではないはずです。

     男であるとか女であるとかを意識することなく、そのポストにふさわしい真の能力や資質を備えた人材が、公正に自由に選出され、活躍できる社会であること、また、そういうリーダーを素直に応援できる社会であってほしいと願うばかりです。

     ――ゲリラ豪雨は甚大な被害を与え、日銀の債務超過が迫っている、という識者もいます。女性総理もそう遠くない将来、誕生するかもしれません。「今、現在」を舞台に、リアリティを持って「一歩先を書く」難しさについて、ご苦労はないでしょうか?

     若いころ、日本国債や外国債券を売買する国際金融市場の現場にいました。何十億円、何百億円もの債券を瞬時に売買する仕事で、常に即断即決を迫られ、自分の一瞬の判断が収益と損失の結果を分ける、熾烈(しれつ)で厳しい世界です。常に神経を研ぎ澄まし、市場の先を見る目を、自分なりに懸命に養ってきたつもりです。そんな背景からか、次に何が起きるかを、ごく自然に考える癖がついているのかもしれません。ただし、次を読むためには、過去を冷静に分析すること、そして、現在を正しく知ることが第一歩です。

     今回は荒川の堤防決壊を取り上げましたが、首都東京を中心にした都市インフラは、ほとんどが1964年の東京オリンピックの時代に整備され、老朽化しています。将来に向けて課題が山積しているなか、それに気づきながらも放置されたままになっているものがいかに多いか。小説のための取材活動を進めるなか、そのことにあらためて気づかされ、愕然(がくぜん)としました。

     そして、忘れてならないのは、自然災害がもたらすのは、決して物的な損害だけに止まらないということです。今回は、都市型災害が金融危機の引きがねになるというストーリーにしましたが、ひとつの危機が次の危機を招いてしまう、そんな可能性についても備える必要があると感じます。

    「いま我々に何ができるか」を考えよう

     ――ベストセラーになった「日本国債」(2000年)、高橋是清を描き、新田次郎賞を受賞した「天佑なり」(2013年)。時代を超えて、「日本経済」と相対され、作品を生み出してこられました。これからの日本経済についてお考えをお聞かせください。

     1987年のブラックマンデー、1997年のアジア通貨危機、2007年のサブプライムローン危機。 「7」のつく年は「暴落」の起きる年だと言う人もいるぐらいです。

     トランプ大統領の誕生、欧州各国での選挙、英国のEU離脱などを背景に、ロシアや中国との関係もますます不透明感を増しています。さらには最近の北朝鮮の動向も無視できないレベルになってきました。世界が混沌(こんとん)の時代に突入し、一歩間違えば、とんでもない崖っぷちが待っているような不気味さも覚えます。

     そんななかで大事なのは、台風が通り過ぎるのをじっと待つだけでいいのか、ということです。自分がいまできること、真に大切で、優先させるべきは何なのか、真摯(しんし)に見直す時期にきているのかもしれないですね。

     大量の国債発行は、将来の税収を、いま、先使いする行為です。将来の日本人に、現代の日本人のツケをまわしても、いまが良ければそれでいいのでしょうか?

     この国の財政や大量の国債発行について、また自然災害に備える対策についても、将来に禍根を残さないようにするのが、現在を生きるわれわれの責務だと考えます。

     いまの日本を、次代や、次の次の世代へと良い形で手渡すために、いま我々に何ができるか。それを、じっくり考えるきっかけにこの作品が役立てれば、作者としてはこのうえない喜びです。

     「大暴落 ガラ」刊行を記念した幸田真音さんのトーク&サイン会が3月27日、東京・千代田区大手町の読売新聞ビルで開かれる。

     午後6時半開場、午後7時スタート。聞き手は日本テレビ 社会部解説委員兼デスクの下川美奈さん。整理券は、紀伊國屋書店大手町ビル店で「大暴落 ガラ」を予約・買い上げの先着100人に配布。問い合わせは 同店へ(電話03・3201・5084、午前10時~午後8時、土日祝日休み)。

    2017年03月13日 12時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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